だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「ディオさん!」

 そう名前を呼びながら大きく手を振ってみる。すると向こうもこちらに気づいたのか、私の姿を見るなり鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

「お前、何でここに」
「約束したじゃないですか。ちゃんと報酬を渡しに行くって」
「いやでも……ここまで来るか、普通?」

 ディオさんは私が貧民街まで来た事にかなり驚いているらしい。私の後ろに立つマクベスタとハイラさんを見て、さらに目を白黒させていた。
 こちら私の友達と私の侍女です。と軽く紹介した所、ディオさんは「侍女……」と顔を顰めていた。
 私がそれなりに偉い立場の人間だって事はディオさんも知ってる筈なんだけどな、と考え事に耽っていると。

「ディオ、その子が例の女の子だよね。本当に来てくれたじゃないか……あの夜は挨拶出来なかったからね、始めまして。俺はラーク、ディオの仲間だよ」

 すぐ側の家から、赤茶色の髪の穏やかな雰囲気の青年が出て来た。青年はディオさんの肩に腕を置きながら、爽やかな笑みでそう挨拶して来た。
 その名前はあの夜にディオさんから聞いたお仲間の話でも出て来た名前だった。確か……。

「……皆のお母さん的立場の人……」

 ラークさんを見上げながらわたしはボソリと呟いた。その瞬間、ラークさんが「ぶはっ」と目をぎゅっと瞑って笑いだした。

「ふ、ふふは……っ、初対面の人に言われるとは……! ねぇディオ、俺達の事何て紹介したんだよ……っ」
「別に普通にだが」
「普通……ふふっ、うん、確かに普通にだ……!」

 あっははは、と爽やかな笑い声を漏らしながらラークさんはディオさんの背中を何度も叩いていた。
 ディオさんは慣れたようにそれを片手で受け止める。

「悪ぃな、こいつ本当にしょうもねぇ事ですぐ笑うんだ。放っておいてくれていい」
「は、はい……」

 そうやってディオさんとラークさんと話していた所、更に周りの視線が強く痛くなって来た。それを察知したハイラさんがどこか落ち着いて話せる場所は? と尋ねた所、すぐ側のディオさん家に案内された。
 中は綺麗に整理整頓がされていて、歴史を感じる木製のテーブルと椅子のある部屋へと私達は通された。
 すぐ近くには長椅子があり、大人数が座れるようになっていた。
 とりあえずテーブルの方に座った私は壁際の台所らしき場所でわちゃわちゃやり取りをするディオさんとラークさんを眺めていた。

「おいラーク、一番高いやつ出せよ」
「分かってるよ。上の棚の中だったね?」
「おう。カップも一度も使ってねぇやつにしろ、前に斜向かいの婆さんから貰ったやつが未開封で置いてあった筈だ」
「はいはい……って、茶菓子無いよ。どうする?」
「それなら今丁度メアリードとルーシアンが街に菓子を買いに行ってるから、戻って来たらそれを……」
「二人が可哀想だな」
「そうも言ってられねぇだろ」

 まるで熟年夫婦かのようなやり取りをする二人。共にワイルドな感じと素朴な感じの美形だからか、とても眼福だ。
 しかし、どうやら私達が突然来た事によりかなり気を遣わせてしまっているようだった。
 別に飲み物も食べ物も無くて大丈夫なのに……とはとても言い出せない雰囲気だった。
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