だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……子供の夢を壊すようで心苦しいんだが、仕方あるまい」

 マクベスタは何かを呟いた直後地面に手を着き、そして……突然、辺りの地面を強力な振動が伝う。同時に少しだけ体が痺れたような感覚に襲われる。
 その振動はマクベスタを中心に発生したようで、マクベスタに接近していたディオとイリオーデは、その揺れの影響か足を止めていた。
 そしてディオ達はマクベスタの姿を見て目を見開いた。なんとマクベスタの足が地面から解き放たれ、自由となっていたのだ。
 ようやく動き回れるようになったマクベスタが、ついに自ら攻めに転ずる。

「成程。雷をゼロ距離で地面に落とす事で、その衝撃で地面を砕いたのか。結構滅茶苦茶な事するなぁ、マクベスタの奴」
「しかも落とした雷を即座に魔力として体内に戻して周りへの影響を軽減させようとした? えーおもしろぉい」

 事態に理解が追いつかず困惑していた私とは違い、精霊のシルフと妙に魔法に見識のあるシュヴァルツがそう話す。
 マクベスタもとんでもない行動を取ったわね……さっきの謎の体の痺れはマクベスタの魔法の影響だったのか。

「ッ……!!」

 マクベスタが攻めに転じてすぐの事。マクベスタがディオの懐に潜り込み、ディオの長剣《ロングソード》が飛ばされて上空に舞った。
 しかしその背後にてイリオーデが大剣を振り下ろす。
 流石にこれは避けられない。そう思ったのも束の間、マクベスタはなんとそれを避けて勢い良く後ろに下がり、イリオーデに体当たりした。
 大剣を振り下ろそうとしたばかりのイリオーデはそれを防げず、バランスを崩して後ろに倒れ込む。
 何とか踏ん張ったものの、その喉元にはマクベスタによって鞘が向けられていて。

「……私達の負けだ。侮っていた訳では無いが、予想よりも遥かに強くて驚いた」

 イリオーデがゆっくり両手を上げ、降参を告げる。それを聞いてマクベスタは鞘を下げた。

「期待を超えられたのなら良かった。お前達もとても良い連携だった、相手がオレでなければかなり良い線を行ったと思う」
「……褒め言葉として受け取ろう」
「褒め言葉も何も、褒めてるつもりなんだが……」

 マクベスタとイリオーデが、互いの戦いをたたえて握手をする。
 試験が終わったようなので私はマクベスタの剣を持って、彼に駆け寄る。当たり前だけど、これ意外と重いのよね。

「マクベスタ、はいこれ。それで試験はどうだった?」
「あぁ、預かっていてくれてありがとう。試験の方は……私兵として雇うに十分な実力があるとオレは思う。ただやはり、いずれ騎士にする事を考えれば個々の実力を伸ばす必要があるだろう」
「そう、貴方がそこまで言うなら間違いないわね」

 マクベスタが涼しい顔でディオ達の実力について話す。……あれだけの戦いを演じてみせて何で汗ひとつかいてないのこの男。
 それはともかく。ありがとう、と私は笑う。
 その流れでディオ達に「お疲れ様」と言いながら怪我をしていないか確認した。
 しかし皆さん怪我らしい怪我は無く、強いて言えば、バドールの鳩尾が少し痛むと言ったぐらいで……まぁ、エリニティも項の辺りを痛そうに何度も摩っているのだけど。
 とりあえず冷却してあげようと、ポケットに入れていたハンカチーフを冷水で濡らし、エリニティに手渡す。
 特に何かある訳でも無い、気休め程度の処置だ。

 こうして実力を確かめる為の試験が終わり、正式にディオ達を私兵として雇う事になった。
 また一旦ディオの家に戻り、話を詰める事に。その際に奴隷商の一件の報酬も渡した。
 とりあえず多めにお金を持って来ておいたので、ディオ達に『いくら欲しい?』と聞いて、返ってきた金額だけ渡したのだ。
 ディオ達は三分程いくら貰うかについて話し合い、その結果氷金貨五枚と非常に控えめに返して来た。
 そんなに少なくていいのかと思いつつ、私は金貨が大量に入った袋から五枚だけ取り出して渡した。
 改めてディオとラーク以外にも貧民街大改造計画について話したりして、私達が城に戻ったのは夕暮れだった。
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