だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……何が『私共とて駆けつけたいのは山々ですが、万が一大司教様が病に侵されてはなりませんので』だ! 大司教ともなると自分の病とて治癒魔法で治せるんじゃなかったのか?! 国教会は無辜の民がどうなってもいいと言うのか……っ!!!」

 カリストロ・オセロマイトが国教会からの返信をぐしゃり、と握り締めて強く吐き捨てる。
 その手のひらには爪がくい込み、赤く痛々しい跡がついていた。
 頼みの綱だった国教会からは、このように期待外れの返事が届いたのだ。
 人々を救う事を教義の一つとする国教会の大司教ともあろう方が、我が身可愛さに支援要請をすげなく拒否した。
 その事実が、カリストロ・オセロマイトとランデルス・オセロマイトを更に追い詰める。
 彼等が取れる手段はもう数少ない。国教会からの支援は期待出来ず、自分達では病を防ぐ事も病を滅する事も出来ない。
 こうして彼等が地団駄を踏んでいる間にも、オセロマイト国内では感染が拡大している。
 なんとか箝口令を敷き、他国にこの病と情報が漏れぬよう徹して来た。しかしそれももう限界に近い。
 ランデルス・オセロマイトは今、国境を閉ざすか他国に救援を求めるか……その二択を迫られていた。

「…………もう、どうする事も叶わないのならば。下手に他国を巻き込むより我が国を閉ざして被害を抑え込むべきか」
「ッ、しかし父上! まだ、まだ何か方法がある筈です…っ!」
「無理なのだ。未知なる病に、我々人類が対抗出来る筈も無かった。あの病が発生したその瞬間に、余達の敗北は決定していた」

 やつれた顔でランデルス・オセロマイトは諦観の念から静かに瞳を伏せた。
 しかしカリストロ・オセロマイトはまだ諦められなかった。
 きっと何か方法がある筈。どうにか……馬鹿みたいに真面目な弟が大手を振って帰って来られるよう、この国を守らねばと必死になっていた。

(──やはり、フォーロイト帝国に助けを求めるしか……!)

 カリストロ・オセロマイトは覚悟を決めた。フォーロイト帝国と言う大国を巻き込み、何としてでもこの未曾有の大感染を乗り越えねばと。
 その後、自身がフォーロイト帝国に処罰されようとも構わない。この国を守れるのなら。
 ……彼の決意はとても固かった。駆け足でランデルス・オセロマイトの部屋を後にしたカリストロ・オセロマイトは、自室に戻るなり手紙を書いた。
 それはフォーロイト帝国皇帝エリドル・ヘル・フォーロイトへの嘆願。これがもし皇帝の元に届いても、皇帝から救援が送られてくる保証は無い。
 だがそれでも、彼は一縷の望みをかけて手紙──文書を書くしか無かったのだ。
 手紙を綴り、封筒に入れる。それをオセロマイト王国の紋章を象られた封蝋で封ずる。
 そして信の置ける従者にそれを手渡し、一日でも早くフォーロイト帝国へとそれを届ける事。道中で絶対に『草死病《そうしびょう》』に罹らないように、と命令した。
 後はもう、祈るのみ。どうか救いの手が差し伸べられる時を、ただ待つのみであった。

「頼む、神よ……どうかオセロマイトを救ってください……!!」

 民を思い、国を思い、家族を思うカリストロ・オセロマイトの切なる願いは、静かな部屋に溶けていった。

 ──この行動が彼の……いや、彼等の運命を大きく変える事になるとは、露知らずに。
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