だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 次は俺が八歳になったばかりの頃。バドールがたまたま傷だらけで道を歩いていたクラリスを見つけ、連れて来た。
 何やらクラリスは父親から暴力を受けていたらしく、確かに見える範囲だけでも多くの酷い痣があった。
 それを治してやろうと、井戸から水を引いて来て濡れた布で冷やしてやったが、それでもその痣は消えなかった。
 その時クラリスは奥歯を噛み締めて言っていた──『あんなクソ親父、あたしに力があったらとっくにぶん殴ってるのに……!』と。
 普通なら親を恐れたりしてもいいだろうに……もう死んでしまったクラリスの母親が強い人だったようだ。
 クラリスの転んでもただでは起きない発言に俺達は感心し、俺達で結託してクラリスのクソ親父をぶん殴りに行く事にしたのだ。
 秘密基地で集まり、誰にも邪魔されないように作戦を立てた。
 そして来る作戦決行日。俺達は計画通り一気にクラリスの家に突入し、クソ親父をぶん殴った。
 ……俺達は全員八とか七とかのガキだった。だからだろう、あっさり返り討ちにあってしまったのだ。子供が何人も集まった所で大人に勝てる筈が無かった。
 これが俺達が強くなろうと決意した原因たる事件だ。
 それから、俺達はしばらくの間本気で怒ったクソ親父から逃げ回る日々を送っていた。勿論、クラリスも一緒にだ。

 毎日命懸けの追いかけっこで大変だったのだが、俺達は何故かそれを楽しんでいた。
 笑いながら走って、木の板を倒してクソ親父の邪魔をして、罠をしかけてそれに嵌めて大笑いして、わざと大人が通れないような狭い道を通り、時に煽り時に貶し……クソ親父から逃げながら街中を駆け回った。
 幸いな事にあのクソ親父は街の大人達の間でも評判が悪かったようで、逃げている間にすれ違う大人達が食べ物や道具を分けてくれたりもしたのだ。
 街の人達は俺達があのクソ親父を怒らせたので逃げ回っていると思っていたらしい。だがある日の夜、俺に良くしてくれていたおっちゃんにクラリスの事を話した所……なんと遂に大人達が動きだしたのだ。
 クソ親父は街の大人達によって酷い目に遭わされ、それ以降は家に閉じこもって外に出てこなくなったらしい。
 クラリスは『クソ親父め、ざまあみろ!』と大口を開けて笑い、その一件以降はバドールの家に邪魔する事になったらしい。
 まさかこれがきっかけであの二人が後に恋人関係になるとは、この時の俺達は考えもしなかった。そもそもクラリスは恋に恋するみたいなタイプじゃなかったし。
 そして、この頃から俺達は街でも有名な悪ガキ集団となったのだ。
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