だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……ディオ兄、僕、やるよ。奴隷なんていちゃいけない」
「オレも……子供達のためにちょー頑張るから!」

 二人は小さく震える己の体を鼓舞していた。本当は過去の恐怖に襲われているのに……それでもそうやって前に進もうとする二人を見て、すげぇなって思ったんだ。
 ……俺は、気がついたらジェジとユーキを抱き締めていた。そして二人にしか聞こえないような掠れた声で、「ごめん」「ありがとう」と伝える。

「……らしくないよ、ディオ兄。しんみりしたディオ兄とかちょっと気色悪いし」
「うるせぇ」
「えへへ、こちらこそありがと、ディオ兄。オレ達の事心配してくれて」
「……家族なんだ、心配して当然だろ」

 ユーキが照れ隠しのように毒を吐き、俺はいつものようにそれに返す。
 ジェジが嬉しそうにありがとうなんて言ってくるから、今度は俺が照れてしまい、恥ずかしい気持ちも抱きつつ当然だと言った。
 この時、優しく頼もしい仲間達に囲まれていて俺は本当に幸福だな。そう、改めて実感した。
 そして俺達は毎日夜に用心棒としての仕事を行った。交代ごうたいで一晩中見張りをしたり、檻の様子を見に行ったりしていた。
 商人共に酷い目に遭わされたガキをただ見ているだけなんて、俺には無理だった。
 ここの奴等にバレない範囲で、俺達は簡単な手当の出来る道具を持ち込んだり配給する食料を多めに持って行って、ガキ共に渡すようにしていた。
 目付きが鋭いだとかで初対面のガキにはまず怖がられるのに……気がつけば檻に入れられたガキ共は俺を恐れなくなっていた。
 いつ出られるの、奴隷にされるの、お家に帰りたい……何度これらの言葉を聞いた事だろうか。その度に俺は唇を噛み締め、自分の無力さから謝る事しか出来なかった。
 だけどいつか必ずお前達を解放してやるから。それまで耐えてくれ……と祈りつつしばらくして。
 俺達は、ついにその日を迎えたのだ。

 大胆不敵に笑う桃色の髪のガキは言った。ガキを救う手伝いをしろと。
 初めてイリオーデと会った時を思い出させる変なガキは言った。俺達の望みを叶えてみせると。
 そして、誰よりも無謀で無茶なガキは言った。この手を取った事を絶対に後悔させないと。
 本来なら一笑に付すべきだったガキの戯言を、俺は真に受けてその手を取った。
 そして決行された作戦は──無事に成功を収めてしまった。檻にいたガキは全員解放され、自由となった。
 何もかもが異様なあのガキは、大人相手に一人で戦い負傷していたが……それでもあいつは勝っていた。
 目的の物もきちんと入手した上で、なんとクソ野郎を警備隊に突き出して謝礼金を貰えなどとなんともガキらしくねぇ事を提案して来た。
 それには流石に笑っちまった。本当に……知れば知るほど訳が分からなくなるガキだ、こいつは。
 途中で知り合った司祭のリードのおかげでガキ共は大体全快。スミレもまた足の怪我が治ったようで、エリニティが迷惑をかけた赤い目のガキと一緒に歳相応に笑って話していた。
 …………そう言う所は、ちゃんと子供なんだな。とふと思ってしまい、俺は慌てて、何考えてんだ俺は? と自分で自分に問いかけた。
 暇そうだったシャルルギルとこの後どうやってガキ共を家まで送るかと話し合っていた所で、スミレがリードの送迎で家に帰るだとかで別れを言いに来た……と思ったら、家の場所を聞かれた。
 こいつ本気なのか? と思いつつ、渋々教えてやった所……なんとあいつはたった一度聞いただけで道を覚えた。
 それには俺もシャルルギルも度肝を抜かれた。シャルルギル程では無いが、確かに俺の家の辺りは道が入り組んでいて迷いやすい。
 長年住んでる俺達でもぼーっとしてると簡単に迷ってしまうんだが……まぁ、道を覚えられたからと言って、実際に来れるかは分からねぇけど。
 貴族っぽいのにどこまでも貴族らしくない別れの挨拶で、スミレとはそこで別れた。綺麗に月が見える、晴れ晴れとした気分の夜の事だった。
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