だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 そしてその後、今日作った地図を誰にも見つからないように机の引き出しの奥の方にしまい、その後は額縁を絵画につけてまた壁に戻した。今回はシルフが魔法で手伝ってくれたから簡単に持ち上げられた。
 しばらくシルフとのんびり話していると、窓の外が夕焼けに染った頃合に一人の侍女が私の部屋にやって来た。

『……──姫様、お目覚めになられていたのですね……!』

 と言いながら、栗色の瞳に茶色の髪を後ろで綺麗なお団子にした侍女は私に駆け寄った。
 彼女はアミレスの唯一の専属侍女、ハイラさん。皇帝と皇太子に疎まれている事から侍女達に妙に見下されがちだったアミレスを、どうやら本気で慕ってくれているらしい変わった人。
 ……勿論私はこの人を知らない。今聞いたのは全て彼女自身から聞いたのだ。
 彼女は二年前からアミレスに仕えていて、下手をすればアミレス以上にアミレスに詳しいというレベルにまで至っていた。……だからこそ、一瞬にしてバレてしまったのだ。

『──貴女は一体誰ですか? 私の姫様ではありませんね』

 そう彼女に言われた時は肝が冷えた。だがしかし、先程まで記憶喪失に陥っていて、フリードルの顔を見たら部分的にだが記憶を取り戻した……と色々口から出まかせを続けていると、ハイラさんは今にも泣き出しそうな顔で私を抱き締めた。

『まさかそんなにもお辛い事に……っ、申し訳ございません姫様、私がお傍を離れたばかりに……!』

 ハイラさんは何度も謝ってきた。私は舌を噛んで自殺してしまいたいぐらいの良心の呵責に襲われた。
 こんなにも本気でアミレスを愛してくれている人を騙す事になるなんて……と私の胸がかつてない痛みを発する。
 それが落ち着いてから、今までアミレスがどう過ごしていたのかをハイラさんから聞いた。アミレスはいつもこの部屋の中で過ごし、滅多に外に出ないらしい。
 ……外に出てもすれ違う侍女達に謗られるだけだし、フリードルや皇帝に出くわしたら『言いつけも守れないのか』と睨まれるだけ。そりゃあ、アミレスだって部屋の中で日々を完結させるでしょうよ。
 アミレスはいつも本を読み勉強をして過ごしていたとか。
 しかし、部屋にはマナーや語学の本に絵本やらがいくつかあるだけで他には勉強出来そうな本は無かったのだが……ハイラさん曰く、アミレスは本当に優秀で大抵の本はすぐに理解し読み終えてしまう為、勉強をする場合は皇宮の大書庫から教材を持ち出して授業を行っていたのだとか。節約にもなるしね。
 だからこの部屋にはそういう系の本が無いのね。
 そしてこれが一番の衝撃だったのだが、なんと私、熱がありました。最初のハイラさんのあの反応は、高熱にうなされていた私が平然としている事に驚いてのものだったらしい。
 そもそも今日の祭り──建国祭はアミレスも出る予定だったのだが、前日の夜に高熱で倒れそのまま欠席……という流れだったらしい。道理で体が妙にぐらついた訳だ。

 ……え? なんで気づかなかったって? さぁ……異世界転生が嬉しすぎて、熱の怠さよりも楽しさが上回っちゃったんじゃないかな。
 それはともかくだ。熱があると言われると、確かに熱があり倦怠感が全身を襲っているような気がしてきた。
 あっ、そうこう言ってるうちに視界が霞む……。

「姫様! やはりまだ回復なされては…………今すぐ氷嚢等の準備を致します! とにかく姫様はベッドの上でお休みください……っ」

 途端に熱がある事を自覚し倒れ込んだ私を、ハイラさんは優しく受け止めてくれた。そして私をベッドに寝かせると、元々看病をするつもりで持ってきていたらしい氷嚢を取り出し、私の額に置く。
 急激に熱くなる全身に、意識は朦朧としてきた。
 そんな中、とても心配そうに私を見つめるハイラさんの頬に触れて、

「心配かけて、ごめんなさい……」

 申し訳ない気持ちを伝えると私の意識は途切れ、深い深い夢の中へと落ちていった。
 次に起きた時、またハイラさんにごめんなさいって伝えよう。私が最初から熱があると気づいて大人しくしていれば、ここまで熱が酷くなる事も無かっただろうから。
 心配と……あと、迷惑もかけてごめんねって……言わなきゃ…………。

 こうして私は……熱にうなされつつこの世界に来て初めての夜を迎え、更に朝も迎える事となったのだ。
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