だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「こっちの食べ物ってなんでこんな全部美味いんだろ……」

 菓子に夢中になっていたシュヴァルツでしたが、突然神妙な面持ちで菓子と紅茶を交互に見始めたみたいですね。彼のいた所はあまり食文化が発展していない地域なのでしょうか。
 この大陸で食文化があまり発展していない地域と言えば……南東の方ですか。あの辺りは食文化はおろかそもそもの文化が完成されていないそうで、こう言っては失礼ですが、かなり粗野で荒れた国なのだそう。
 そことフォーロイト帝国の食文化を比較しては、どう足掻いても雲泥の差が生じてしまいます。
 ただ……フォーロイト帝国は大陸の北西に位置する為、ほとんど正反対の位置にある地域から、幼い子供がここまで来られるとは到底思えないのです。
 それに、彼の服装はどう考えて大陸南東地域出身のものではありませんし。

 一見質素に見えるが実際は上質過ぎる魔絹《シルク》のみで作られた濃い紫の外套に、貴族の少年が着るような華やかな純白のシャツと真っ黒な膝上丈のズボン。彼の胸元には同じように真っ黒なリボンが結ばれています。
 陶器のように白く美しい素足を恥ずかしげもなく晒し、靴は貴族令嬢が好んで履くような可愛らしいものを履いていますね。
 その頭は所々に黒い部分のあるとてもふわふわとした真っ白の髪。彼の動きに合わせて揺れる大きな触角のような髪束は、本人の可愛らしさを手助けするかのよう。
 大きく丸い金色の瞳も相まって、全体的に愛らしいと言う印象を抱く少年……まぁ、当然、私の姫様の方が圧倒的に可愛らしいですが。
 明らかに大事にされて来たであろう風体……この事から、シュヴァルツはやんごとなき身分であると推測されます。
 しかし、ここ暫く、フォーロイト帝国の貴族達の間でシュヴァルツ程の少年が行方をくらましたと言う話は聞かなかった。そもそもシュヴァルツと似た特徴を持つ貴族など一人たりともいなかったと思います。
 よって……シュヴァルツは恐らくフォーロイト帝国の人間では無いでしょう。他国の王侯貴族出身である可能性が高いです。
 改めて、カラスに他国の事も調査させましょう。

「あ。そうだ、ハイラに聞きたい事あるんだけどぉ」
「何でしょうか」

 口の周りに菓子の粉などをつけた状態で、シュヴァルツがおもむろに口を切りました。そして、彼は私の目を見て言いました。

「……この前おねぇちゃんが言ってた事、本当なの?」
「……この前とは」
「貧民街に行った時のやつ、いつか父か兄に殺されるって言ってたあれ」
「……」

 そんな事、考えるまでもありせん。
 皇帝陛下と皇太子殿下は、ただ純粋に愛を求めて来た姫様に一度も応えなかった……それが何よりの証拠です。
 誰であろうと不要な者は文字通り切り捨てる皇帝陛下ならば、姫様の事もいつかは…………なんて。そう考えた事が無かった訳ではありません。
 寧ろ、毎日のように皇帝陛下の影に脅えているぐらいです。今日も無事に姫様が生きて下さるように、皇帝陛下に不要とされないように……そう、私は毎朝祈っておりました。
 何となく、ではありましたが……それを姫様が悟っている事に六年前のあの日より薄々気づいてはいましたが、まさか、あそこまでとは。

 一度記憶を失い取り戻された姫様は、皇帝陛下と皇太子殿下を酷く嫌い、御自身が強くなろうと励むようになりました。まるで……御二方にいつか殺されてしまう可能性に気付き、自分の身は自分で守る為かのように。
 そんな姫様をどうして止められようか。私は、日々たゆまぬ努力を重ねる姫様をお傍で支えて来ました。時に教師として、時に侍女として、時に人生の先輩として。
 そうして。六年が経った今では、精霊であらせられるシルフ様とエンヴィー様のご教授もあり、姫様は大変お強く成長なされました。
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