だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……ふ、はははっ、そんな怖い顔しなくても……ぼくは逃げないよぉ? いくらでも、好きなだけぼくの事は警戒していいし調べてもいいからね。おねぇちゃんがいる限り──ぼくが飽きない限り、ぼくはなーんにもしないからさ」

 じっと観察するように彼を見ていた所、菓子を取る手を一旦止めてシュヴァルツはにこりと怪しい笑みを浮かべた。
 ……気づかれた? 彼を警戒していたのが、そんなに顔に出ていたと言うのでしょうか……。
 シュヴァルツは勘が鋭い上に妙に博識多才です。世間知らずな割に、ですが。後、倫理観と常識と思いやりというものも欠如しています。その見た目の歳の割に、ですが。
 彼が突然核心をついた事を言うのはこれで何度目でしょうか……やはり、彼の前では気を張らねばなりませんね。彼の発言に、ついこちらが動揺してしまいますから。

「……そう仰るのであれば、好きに警戒し調べさせていただきます。では早速尋問の方に参りましょう」

 シュヴァルツの向かいの席に座る。すると彼は目を丸くして、何度も瞬きをしました。

「尋問? これ今からぼくに直接聞く感じ?」
「はい。貴方はどこの誰でどこから来ましたか」
「わぁー直球ぅー!」

 彼は目尻に皺を作って楽しそうに笑う。ひとしきり笑い終えると、両手で頬杖をつき上目遣いで彼は答えました。

「どこの誰だと思う?」

 ──質問返し、と言う割と卑怯な方法で。
 しかし私は動じません。彼のいい加減で滅茶苦茶な振る舞いにはもう慣れつつありますから。
 姫様の侍女として当然の努力です。

「分からないから本人に直接聞いているのですが」
「はは、そーだねぇ。うーん……どこの誰にしよう、じゃあ白の山脈の方の……とっても可愛い美少年で!」

 どこの誰かと聞いて、どこの誰にしようなんて言葉が帰ってくる事あります? 隠すにしてもはぐらかすにしても、ここまでは表に出さないでしょう、普通は──あぁ……そうでした。
 この少年は普通ではないのでした。それも、私の常識が基本的に通じない。
 ……彼への教育の項目に、普通と常識を加えておきましょうか。

「巫山戯ないで真剣にお答え下さい」
「真剣だってばぁ〜」
「口調からして真剣さなど皆無ですが」
「だってぼくはこう言う口調なんだもん」

 ああ言えばこう言う……本当に面倒臭いですねこの人。大人しく言う事を聞いてくれないのでしょうか。
 姫様がお連れした人間で無ければ適当な理由をでっち上げてカラスに始末させてますよ、もうとっくに。
 はぁ……せっかく尋問を始めたと言うのに、一向に進展せず、気づけばこうして彼のペースに呑まれてしまいます。
 その後も暫くは尋問を試みたのですが、例に漏れず適当に躱されてしまいました。
 何ですか……「実は王様なんだよねぇ〜」とか「本名はシュヴァルツじゃないよぉ、これは適当に考えた偽名!」とか「うーん、別の世界から来たとか?」って…………人を小馬鹿にしたような発言ばかりして……今時子供でももう少しまともな嘘を付きますよ。
 もう、疲れました。彼の相手をするのは……。
 そんな精神的疲れから私はその後の授業を自主学習へと変更し、彼へ山積みの課題を渡して足早に自身の業務へと戻ったのです。
 少々荒んだ心も、姫様の為の仕事をしていれば和むというもの。
 やはり私にとっては姫様こそが全て。姫様が私の精神安定の要であり、私の人生の支柱なのです……!
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