だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……そうでしたか。では私は諸々の手配に向かいます」
「えぇ、任せるわねハイラ」
「御心のままに」

 一瞬、彼女の表情が曇ったような気がしたが……それは気のせいだったのかと思う程、恭しく華麗に一礼してハイラさんは部屋を出た。
 待つ事数分でハイラさんはまた戻って来て、手紙一式を置いて手配へと向かった。そんな彼女と入れ違いになるように、大量の本を抱えたシュヴァルツが現れる。
 ミカリアに押し付ける為の手紙を書く私に、瞳を爛々と輝かせるシュヴァルツが突撃して来た。

「ねぇねぇ何してるのおねぇちゃんっ」
「見ての通り手紙を書いてるだけよ」
「誰に? メイシア?」
「今回はメイシアじゃないよ。国教会の聖人……って分かる?」

 シュヴァルツってちょっと世間知らずな所あるしなぁ、と思いそう聞いたのだが……その瞬間シュヴァルツの笑顔がピタリと止まった。

「へぇ、聖人かぁ。ぼくも知ってるよ、会った事は無いけど知り合いからよく話聞いてたから!」

 別にいつもと変わらない笑みなのだけれど、今一瞬、シュヴァルツの笑顔がとても邪悪なものに見えた気がした。
 シュヴァルツはいつも通り、褒めて褒めてとばかりにふわふわの頭をずいっと突き出して来る。それを撫でてあげると、シュヴァルツは無邪気に喜んでいた。
 そしてその後も私は手紙を書く。ミカリアの僅かな人の心に働きかけるような、そんな文章を……。

「……よしっ、これでいいでしょう!」

 時間が無いので手紙は一発勝負。便箋を折って封筒に入れ、封蝋を流してフォーロイト帝国が皇家を示す紋章の印璽を押す。
 私はその手紙を師匠に手渡して、改めて頭を下げ頼み込む。

「お願い、師匠。これをどうにかしてミカリア・ディア・ラ・セイレーンに渡して欲しいの」
「──我等が姫君の仰せのままに。なんてな」

 師匠が私の左手を取りその甲に口付けを落とした。
 突然の事に完全に固まる私を置いて、師匠が小っ恥ずかしいとばかりに耳を少し赤くして私から離れた。

「っあー……やっぱ慣れねぇ事はするもんじゃねェな……ま、アレだ、行ってきますわ」

 それだけ言って、師匠の姿が淡い光に包まれ消えてゆく。程なくして師匠はこの場よりいなくなった。
 しかし私の体はまだ固まっている。だって仕方ないでしょ、あんな超が付く程の美形が突然あんな女の子憧れみたいなシチュエーションぶっ込んで来たのよ、いくらなんでも驚くわよ‼︎
 時間差で徐々に顔に熱が集まる。あぁ、あんなのどうやって照れるなっていうのよ……!
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