だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「私が暫くここを留守にしている間……皇宮を、私の家を守っていて欲しいの。この腐った城で……私が唯一心を休められるこの場所を、心より信頼している貴女に任せてもいいかしら」

 ゆっくりハイラさんへと近づいて、私は彼女の手を握ってそう聞いた。
 もし全員で長期間皇宮を空けてしまえば、やるべき仕事や掃除が溜まり何かしらの事件が起きる可能性すらある。それではいけない。
 だからこそ、今この皇宮にいる誰よりもこの東宮に詳しいハイラさんに留守を任せたいのだ。

「……そう、命令されてしまっては……私に反論する余地など、無いではありませんか…………」

 私の手を握り返して、彼女は消え入りそうなか細い声で呟いた。
 悲しげな瞳で俯くハイラさんの頬に触れ、

「ごめんね。こんな主で」

 私は謝った。しかしハイラさんは何度も首を横に振ってそれを否定した。

「いいえ……そのような事はありません。姫様は、私のような者にはあまりにも過分な素晴らしい御方でございます」
「ハイラは本当に大袈裟ね」
「大袈裟などではありません。他ならぬ姫様なので当然の事なのです」
「私は貴女が思う程良く出来た人間じゃないのだけれど……」

 そうやって二人で暫く会話をした。これから暫くの間出来なくなってしまうから……その分も今の内に沢山話した。
 マクベスタが用意を済ませてこちらに来るまでの間……私はハイラさんと──ううん、ハイラと今後の流れを打ち合わせしたり、今の社交界の流行りを教えて貰ったり、帰って来たら二人でどこかにお出かけしようと約束したりしていた。
 そうやって約束を結んだ時のハイラはどこか幼い少女のような表情をしていて、いつもの大人びた美人な印象とは違って新鮮だった。
 私としては、この約束がフラグとならない事を祈るばかりであった……。

 そしてマクベスタの用意が終わり、私もまた簡単に荷物を纏めて、ついに旅立つ時が来た。
 今度は男装もせず、私は私として外に出た。
 荷物を持って皇宮を出た時には……空はもう暗く、日が沈みきっていた。
 どこからともなくハイラが用意して来てくれた荷馬車で、私達はオセロマイト王国まで突っ走る予定なのだが……ハイラは留守番の為、別で御者を雇わなければならないのだ。
 さてどうしようかとマクベスタと二人で考えていた時。楽しそうに馬を撫でてたシュヴァルツが、

「眼帯の人達の誰かは馬車の運転も出来るんじゃないのぉ?」

 と発言したので、それに私はナイスアイデア! と親指を立て、シャルに同行を頼む際にどなたかついでに……と決めた。
 でも貧民街に行くまでの道は誰が運転するのと言う話になり、あまりにも行き当たりばったりなこの計画に困っていると……またもやシュヴァルツが我々を窮地から脱出させたのだ。
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