だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「で、僕に何か用……いや。僕に何をして欲しいんだい?」

 リードさんが、穏やかに、どこか困ったように眉尻を下げる。本当に、どこまでも察しのいい人だ。
 私はまたオセロマイト王国の現状について掻い摘んで説明し、その上で彼に協力してくれと頼んだ。
 誰も彼もを巻き込んでしまい申し訳ないと思う。だけど、あの国を救う為にはこうするしかないのだ。
 どうしても無理と断られてしまったら諦めるしかないけれど、そうでないのなら粘って何とか……と決めた時。

「よし、引き受けよう」

 私の話を聞いて、リードさんは速攻でそう答えた。
 流石に即決が過ぎる……そう謎の不安を覚えた私は、「本当に良いんですか?」と聞き返した。
 しかしリードさんは変わらず気前の良さそうな笑みを浮かべていて。

「元々、オセロマイト王国にもいつか行く予定だったんだ。緑がとても豊かな国と聞くし、楽しみにしていたんだ……だがその国が今危険な状況に置かれているとあれば、僕だって何もしない訳にはいかないと思ってね」
「……ありがとうございます、リードさん……っ」

 とっても優しくてお人好しの彼に、本当に何から何までお世話になっている……頭を下げても下げ足りないぐらいだ。

「人々を癒す事しか、僕には出来ないから……まぁ……その唯一の存在意義すら捨ててしまったようなものだけど」

 ふとその綺麗な顔に影を落として、リードさんは呟いた。
 どう言う意味なのか聞きたかったけれど、何だか踏み込んではいけない気がした。リードさんの心に、これ以上誰かが触れてしまってはいけない気がした。
 その為私は何も聞けずじまいだった。

「王女殿下。これから行くんだよね?」
「えっ? う、うん」
「じゃあ今から荷物を纏めるから少し待っておいてくれるかい」

 一切の文句も言わず、リードさんは準備に取り掛かった。
 ぼーっと物思いに耽っていた時に話しかけられたので、私は少し動揺してしまった。
 程なくしてリードさんの準備が終わり、私達は水の宿を後にした。
 リードさんは旅人らしく多いようで少ないような荷物一つだけで、とても身軽そうではあった。

 そして少しして馬車に戻ると、何やら植物について熱く談議していたらしいマクベスタとシャルが出迎えてくれた。お互いに初対面な人達が大半なので、私はここで改めて紹介をする事にした。
 共通の知り合いたる私が、「こちらが元司祭のリードさんで、こちらは私の友達のマクベスタと協力者のシャルルギルです」と紹介すると、マクベスタとシャルがぺこりとする。
 しかしリードさんはと言うと、

「……ちょっといいかな、王女殿下」

 挨拶をするのでは無く、動きや表情を失った笑みをこちらに向けて来た。
 何やらちょっとした恐怖を背中に感じた途端、リードさんに手を引かれて皆から少し離れた場所に立つ。
 すると突然リードさんが私の肩を掴み、そして顔を目の前に近づけてきて……。
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