だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「なっ、貴様ぁああああああああああッ!!」
「神々を愚弄するなど不敬な咎人だ! この神殿都市にこのような咎人が現れるなどあってはならぬ! 早急に粛清せねば!!」
「…………はぁ、うるせぇなァ」

 糸がプツンと切れたように、彼等は激昂した。
 そして彼等が魔法を発動しようとした瞬間。エンヴィーを中心に灼熱の如き魔力が放出される。
 その魔力にあてられた人や物は例外なく溶解されてゆく。間近にいた司祭達がその被害を最も受けた。
 瞬く間に焼け朽ち溶けゆく体。導火線のように凄まじい勢いで消えてゆく祭服。今際の叫びを上げる事すら出来ぬまま、二人の司祭は人とも思えぬ肉塊へと成り果てた。
 勿論被害は司祭だけに留まらず……辺り一帯の白亜の地もまた表面が溶け、美しく均されていた道に歪なでこぼこを生み出した。
 生物も草木も建物さえもが全て等しく熱気により溶かされた。そう、ただの熱気でだ。
 それは大聖堂にさえも牙を剥いていた。至高の建築と有名なその聖堂の顔たる正面は最早原型を留めておらず、見るも無惨な状態となった。

 これが精霊の力。数多くの制約で縛られても尚、人間より遥かに強い力を持つ最上位精霊と呼ばれる存在の力。人間が逆らえる筈も無い自然そのもの──災害の如き存在、それが精霊なのだから。
 火の最上位精霊の放った熱いだけの魔力に溶かされはしなかったものの、その熱気により火傷を負った者達がエンヴィーの姿を恐怖と憎悪に満ちた瞳できつく睨む。
 しかし、エンヴィーがそんなものに興味を示す筈が無かった。

「……まァ、何としてでもって言われてるし……多少人が死のうとも報告しなきゃバレねぇか。そうだな、報告しなきゃいいんだわ」

 つい売られた喧嘩を買ってしまったエンヴィーは、放出していた魔力を瞬時に収め、頭を抱える。
 冗談のつもりだったのだが、彼はついつい人を殺してしまった事を少しばかり後悔していた。
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