だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「この道は数十年前に作られたものでして、国教会でも極僅かな人のみが知る道なのです」

 歩く際の話題にとミカリアが口を切る。
 それには「へー」と興味なさげに答えたエンヴィーであったが、彼の反応はすぐさま塗り替えられる。

(……姫さんは何でこの道の事を知ってたんだ?)

 ピタリ、とエンヴィーの表情が固まる。顎に手を当ててエンヴィーは考えた。

『聖人の私室は大聖堂の霊廟の更に奥で、きっと侵入するのは困難だろうけど……信じても、いいですか』

 エンヴィーの脳裏に再生されるただの人間の少女の言葉。
 本来知る由もない事にも関わらず、どこか確信を持って話した彼女は一体何者なのか。
 そんな疑問符がまたもやエンヴィーの頭に出現した。

(あのヒトのお気に入りって時点で相当変わってんのは決まりだし、俺自身それは身をもって知ってるんだが……だとしてもやっぱり……ま、その内分かる事か〜)

 が、しかし。エンヴィーは考える事をやめた。
 別に絶対に今明かさなければならない問題と言う訳でもなければ、特に明かす必要もないからである。
 アミレスが何者なのか……気にならないと言えば嘘になってしまうが、別に彼女が何者であろうとエンヴィーには関係の無い事。
 例えアミレスがどんな存在であろうとも──エンヴィーにとって、アミレスはただの可愛い弟子。それだけは変わらないのだ。

「到着しました。こちらが僕の私室になります」

 暫し歩くと、美しい扉の前でミカリアが立ち止まった。その扉をミカリアはゆっくりと開き、エンヴィーを招き入れた。
 部屋の中は綺麗に整頓されていて埃一つ無い。そして窓も無い。
 部屋の中にあるものと言えば……天蓋付きの寝台《ベッド》、様々なジャンルの本が所狭しと並ぶ本棚、ペンと紙が置かれた机、隣の部屋へと続く扉、謎の巨大なぬいぐるみぐらいだ。
 この空間において巨大なぬいぐるみはとても異質だった。
 その為、エンヴィーはそこに視線を奪われていた。それに気づいたミカリアが微笑みながら説明をする。

「それは……僕の唯一の友人…………じゃあなくて、知り合いが四十年程前に贈ってくれた、誕生日の贈り物なんです」
「ぬいぐるみねェ……随分と嬉しそうじゃん。人間がぬいぐるみ貰ったら喜ぶってマジだったのか」
「少なくとも僕はとても嬉しかったですね。彼から贈り物を貰ったのは後にも先にもあの時だけでしたから」

 ミカリアは脳裏に一人の男の姿を思い浮かべ、懐かしむように話していた。エンヴィーはそれを興味ありげに聞いていた。
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