だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「…………これは」

 確かにフォーロイト帝国皇家からの手紙ではあったが……それは無情の皇帝ではなく、その娘──一度たりとも表舞台に姿を見せた事の無い、帝国の王女からの手紙だった。

「うちの姫さんがそれをどうしてもお前に届けてくれって頼んで来たんでな。ちゃんと隅々まで読め。そして従え」
「……王女、殿下が」

 エンヴィーは手紙の事を軽く話し、「姫さんからの手紙とか俺達ですら貰った事ねーんだぞ」と少し不貞腐れた。
 しかしそれをスルーし、ミカリアは己の記憶を総動員して帝国の王女に関する情報を全て引っ張り出した。

(名前はここに書かれてあるように、アミレス・ヘル・フォーロイト王女。確か御歳十二か十一で、現帝国唯一の王女でありながら今まで表舞台に一度も出て来ていない。だったかな……こんな事なら、彼等に任せず僕自身でもっとフォーロイト帝国の情勢を見ておくべきだった……)

 ミカリアはその聖人と言う身分から閉鎖的な生活を幼い頃より強いられて来た。しかしそれでも周辺諸国と上手くやって行く為には情報は必須。
 なのでそれらの事は全て大司教、ないし枢機卿と呼ばれる存在が担っている。その制度が今、仇となったのだ。

(いや、それよりももっと重要な事は──)

 手紙より顔を上げ、ミカリアはエンヴィーの赤い瞳を真っ直ぐ見つめた。
 そして、彼は問いかける。

「──精霊様。帝国の王女殿下は……精霊士なのですか?」

 エリドル・ヘル・フォーロイトが精霊を従えているのではなく、アミレス・ヘル・フォーロイトが精霊を従えている。
 それは先程のエンヴィーの口ぶりと此処に来るまでの言動、そしてこの手紙の内容から察する事の出来た事だった。
 精霊士とは精霊との相性がとても良く、召喚した精霊と契約しその力を借りて自在に操る特殊かつ貴重な存在。
 ここまでの存在感を放つ推定上位精霊のエンヴィーを使いに遣る程の力がアミレスにはあると、ミカリアは考えたのだ。
 しかしそんなミカリアの推測を笑い飛ばすように、エンヴィーはサラッと答えた。

「いや違ぇけど。俺は別に姫さんと契約してる訳じゃねーし」
「…………え?」

 ミカリアの開いた口が塞がらない。しかし彼の美しい顔ではそんな間抜けな表情でさえも絵画のごとき美しさを放つ。
 自身が間抜けな表情をしてる事にさえ気づかず、ミカリアはその表情のまま高速で頭を回転させていた。
< 295 / 1,368 >

この作品をシェア

pagetop