だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(いやおかしいでしょう、自我が強い精霊は下位精霊でさえも契約無しには言う事を聞かないと言うのに。それなのにこんな自我の塊みたいな上位精霊が契約もしてない相手の言う事を大人しく聞いているだって? い、一体……)

 ぐるぐると頭を働かせているうちに、ミカリアはついうっかりポロッとこぼしてしまった。

「帝国の王女は何者なんだ……」
「さぁなァ、俺達も知りてぇぐらいだ」

 その呟きにエンヴィーは欠伸をしながら反応した。
 相手が何者かも分からないのに、上位精霊が何故従うんだ……? とミカリアが疑念に満ちた視線を送ると、エンヴィーが「つぅかそんな事ァどうでもいいんだよ」と強引に話題を変えた。

「で? お前は今すぐ姫さんの言う事を聞くんだよな?」

 威圧的で僅かな熱を帯びた魔力がまたもや放たれる。
 しかし先程のような被害は全く出なかった。それもその筈……何故ならこれは本当に威圧目的で放たれたものだからだ。
 その威圧を正面から受けたミカリアは、全身が痺れピリつくような感覚に陥った。

「……勿論です。ですが、少しばかり時間を頂けますか? 僕も少々やる事がありまして」

 ミカリアはこくりと頷き、その流れで交渉に躍り出た。
 それにはエンヴィーも眉を顰めたが、

(あー……姫さんに頼まれてんのは手紙を渡す事、だしなァ。でも一刻を争うような事なんだろ? やっぱ急かした方が……いやもういいか。姫さんの申し出を引き受けるっつってんだ、これで十分だろ)

 アミレスの頼み事は果たしていた事から、別にもう大丈夫か。と判断し、ここで妥協したのだ。
 そしてエンヴィーはおもむろにミカリアを見下ろして命令する。

「別に構わねーよ。だが急げ、絶対に一週間以内にはオセロ……なんとかに向かえ。いいな」
「畏まりました。聖人、ミカリア・ディア・ラ・セイレーンの名において……必ずや数日以内にオセロマイト王国に向かいます」

 ミカリアは腰を曲げ、粛々と拝命した。
 その返事を聞いて完璧に役目を終えたエンヴィーは、

(そうだそうだ、オセロマイトだ。そんな名前してたなァーマクベスタの故郷)

 と気の抜けた事を考えていた。
 その後程なくしてミカリアの案内で外に出たエンヴィーは、侵入した時同様、結界を素通りして神殿都市より脱出した。その頃には夜空に月が浮かび、神殿都市周辺の地は空より闇が降りて来ているようだった。
 脱出した直後、エンヴィーは今一度自身の存在《スケール》を人間界の規格に落とし込み……アミレス達の知るいつもの姿へと戻った。
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