だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「前例が無く致死率が高い未知の伝染病……その概要を聞いただけで、普通、たった十二歳のお姫様が自ら現地に行って解決しようとは思わないでしょう。死ぬ可能性の方が高いのに、どれだけ自身を顧みないのか……」

 シンプルでありながら精巧な彫刻があしらわれた椅子に座り、ミカリアは暗い天井を仰いだ。
 しばしその姿勢のまま物思いに耽ると、ミカリアは突然自身の頬を両手でパンッと叩き、決意を帯びた瞳で言った。

「……良し。小さなお姫様が頑張っているんだ……僕が──他ならぬ僕が何もしない訳にはいかない」

 彼の決意は静かな部屋に溶けていった。
 その後おもむろに立ち上がったミカリアは部屋を出て、誰もいない静寂の廊下を進む。

「大司教の職位を持つ者達に告ぐ……至急大聖堂が議会室に集合しなさい。これより──円卓議会を執り行う」

 誰に言いつけるでもなくミカリアはそうこぼした。
 その瞬間付近にいた何者かが姿を消し、その旨を伝令しに向かった。この命令は瞬く間に全ての大司教に伝わり、やがてその者達は必死の形相で議会室へと足を向けた。
 例えどのような場合であろうとも、聖人が円卓議会を執り行うと言えば……大司教の職位を持つ者は必ず出席せねばなるまい。
 もう眠りについていた者、身を清めていた者、鍛錬に励んでいた者、身を休めていた者、残業に縛られていた者……状況は十人十色ではあるが、彼等彼女等はその時己が行っていた全てを中断し、白亜の円卓にある自身の席に座った。
 そして聖人の到着を待つ。荘厳で壮麗な空間にて一言も発さず、神の代理人たる聖人君子の登場を待つ。
 そしてその時が来れば……彼等彼女等は一糸乱れぬ動きで立ち上がり、開かれた扉に向けて深々と頭を垂れた。

「……うん、十二人全員いるね。それじゃあ始めようか」

 ミカリアが微笑みながら席に着く。その後、ミカリアの左隣の第一席より順に席に着き始めた。
 第一席は唯一の枢機卿ラフィリア。第二席は信託の大司教ジャヌア。第三席は節度の大司教ブラリー。第四席は禁食の大司教マリリーチカ。第五席は無芸の大司教エフーイリル。第六席は悪滅の大司教メイジス。
 第七席は緊縮の大司教ジュークラッド。第八席は時厳の大司教ライラジュタ。第九席は無戦の大司教アウグスト。第十席は不眠の大司教セラムプス。第十一席は無色の大司教オクテリバー。第十二席は真実の大司教ノムリス。
 以上の計十二名の者達が順々に席に着き、そしてようやく円卓議会が始まりを迎えた。
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