だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 ……やっぱり恥ずかしい!! こんなに男の人と接触した事な……くはないけど! でもそれは師匠との体術の訓練だし!
 身内の男(かぞく)とはほとんど関わって来なかったんだもの、ぶっちゃけ、男の人とここまで接触した場合どうすればいいのか分からない。
 ──よし、寝よう。寝て起きたらきっと全て解決してる。
 この車内で寝るなんてまず不可能かとは思うが、それでもやるっきゃないのだ。
 そう覚悟を決めて私は瞼を閉じ、古典的に羊を数える事にした。暫く数える事百十四匹……それ以降の記憶が、私には無い。
 つまり……私は本当に眠る事が出来てしまったのだ……。


♢♢


「あれ、おねぇちゃん寝ちゃった?」
「この振動で寝られるとは、流石は王女様だ」

 いつの間にか船を漕ぎ出したアミレスを見て、シュヴァルツとシャルルギルは感心したように話す。
 夜空のごとき寒色の瞳は姿を隠し、赤ん坊のように小さく口を開けて寝息を立てる様子は……剣を握り悪に立ち向かった勇敢な王女とは思えない程、大変愛らしく年相応に思えるものだった。
 何故荷台が壊れないのか不思議なぐらいの音を立てて進む虎車。そしてアミレスを包み込むようにして支えているイリオーデの温かみ。
 それが、眠るアミレスにとってはさながらゆりかごのように感じたのだろう。何せここには信頼出来る味方しかいない為、アミレスは外敵を警戒しながら寝る必要が無い。
 お陰様で有り得ないぐらいぐっすりである。

「……こうして寝ていると、ただの十二歳のお姫様なんだけどなぁ」
「いくらおねぇちゃんが可愛いからって手ぇ出しちゃ駄目だよぅ、イリオーデ」

 リードがボソリと呟くと、シュヴァルツがそれに続くように爆弾を落とす。その発言にリードが「手ぇ出す?!」と戸惑い、シャルルギルが「イリオーデ、お前……エリニティのような変態だったのか……?」と愕然としていた。
 一気に悪者へと仕立てあげられたイリオーデは、不機嫌そうに眉を寄せた。

「王女殿下に手を出すなどと、何と不敬な事か…」

 あからさまに不機嫌となったイリオーデがこの話を続ける筈も無く、この話はここで終わるかのように思えた。
 しかし、ここでシュヴァルツが食い下がった。
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