だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

78,5.ある男達の談話

 夜。殿下が眠ったのを確認し、焚き火を囲みながら俺達は話し込んでいた。参加しているのは今日はもう寝ると言って眠ったシュヴァルツを除いた、俺とシャルルギルとイリオーデとリードとマクベスタの五人だった。
 内容は勿論殿下の事。何もかもが規格外で異常な我らがお姫様の話をしていた。

「……ずっと聞くタイミングを窺っていたのだが、王女様のあれは普通なのか?」

 最初に口を切ったのはシャルルギルだった。
 それは殿下の魔法技術について……学のない俺達でさえも異常なのだとハッキリ分かる程に、あまりにも優れた才能と確かな力を持つ彼女についての事。
 殿下が出してくれた綺麗な水の入った皮袋を片手に、魔法に詳しいリードに向けておもむろにそう尋ねたのだ。
 それにリードは瞳を伏せて当然のように首を横に振った。

「世界中の魔導師の実力があの水準だったなら……魔法はもっと発展している。分かりきった事だがあえて断言しよう、王女殿下の魔法に関する実力は──異常だ。天才の一言で済ませられる域を超えようとしている」

 今までに無いくらいハッキリとした物言いで語るリードの言葉に、俺達はやはりそうかと納得せざるを得なかった。
 やけに剣を持つのに慣れている事は今は一旦置いておくとして…………魔法の腕だけでも間違い無くおかしい、異常、それはよく分かる。
 水の魔力を持つ人間が水を出せるのは当たり前だ。
 だが……それはただの普通の水であり、不純物一つ無い純水や冷水に温水、はたまた霧まで……こんなにも幅広いものを出せるなど聞いた事が無い。

「……この結界、一国の城に張られていてもおかしくない強度だ。彼女は一晩ぐらいならと言っていたけれど、その気になれば半年でも一年でも余裕で維持出来るだろう。それだけ、一切の無駄が無く計算され尽くした結界だよこれは……」

 ふと、リードは「はは」と乾いた笑いを浮かべながら横に目を向けた。
 その先には薄い水の膜のようなものがある。それこそが殿下があっさりと作り上げた水の結界であり、俺達に殿下の異常性をとくと知らしめる事となった切っ掛けである。
 リードがあんな風に笑う理由にも、何となくだが予想がつく。

 リードもまた結界魔法が扱える(本人は苦手と言っていたが)稀有な存在だからこそ、殿下が発動した結界魔法の恐ろしさが良く分かるのだろう。
 何も分からないし何も知らない俺達ですらその結界魔法に言葉を失い、呆然と殿下を見ている事しか出来なかったのだから。

「それにね、恐ろしい事に……この結界魔法……深水四方結界《しんすいしほうけっかい》と言っていたかな? これは彼女のオリジナルみたいなんだよね。結界魔法のなんたるかを理解した上で水の魔力で発動する為に最適化したんだろう。ははは、全く意味不明だ!」

 まるで自棄《ヤケ》になったかのように豪快に笑いながらリードは天を仰いだ。
 それを聞いて俺達は顔を見合わせる。シャルルギルとイリオーデと……次々にお互いの目を見てはその驚愕や動揺を声に出さず、嘘だろ? と目と目で会話していた。
 しかし最後に三人同時にマクベスタの方を向くと、アイツは目を逸らしながら小さく頷いた。
 それすなわち、リードの言葉は本当《マジ》という事。この中で一番殿下との付き合いが長いマクベスタが言うのだから違いない。
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