だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

80.オセロマイト王国にて2

「……あら、おかしいですね。私《わたくし》はただ挨拶を述べただけですのに……挨拶を返して頂けた訳では無く、そのように化け物を前にしたように騒がれてしまうなんて。此処がマクベスタの祖国でなければ……私《わたくし》、許せなかったと思いますわ」

 困ったような口振りで表情を持たぬ頬に手を当てて、辺りをぐるりと一瞥する。するとどうだろう……不自然な程に辺りは静かになった。
 やっぱり急を要する時はフォーロイトらしく振る舞った方が早いのね、次からは初手傲岸不遜で行こう。
 この際だからもうオセロマイト王に直撃しようじゃないか。虎の威を借る狐ならずフォーロイトの威を借る王女よ!

「挨拶には挨拶を。これしきの事……子供でも知る常識ですものね、オセロマイト王?」

 オセロマイト王に向け、私はわざとらしい笑顔を貼り付けてみた。
 銀髪に寒色の瞳を持つフォーロイトの人間が笑った事に、周囲の人達は露骨に恐怖していた。中には足が産まれたての子鹿のようになっている人もいた。
 そこそこ不敬を働く私ではあるが、此処で殺されたり処されたりする可能性は限り無く低いと判断して行動している。

 私がフォーロイトだからという理由だけではない。私がマクベスタの友達だから。
 それに私が此処にいる理由は草死病《そうしびょう》に瀕するこの国を救う為だから。
 この国を草死病《そうしびょう》と言う呪いから救う方法を知る人間は私だけなので、私が死んだ時点でこの国はアンディザ本編前──ゲームの設定通りに破滅を迎える。
 それは見過ごせないし、そもそも私はこんな所で死にたくない。
 なので私は、確実に死ぬ事だけは無いであろうこの状況だからこそ、こうして強気に出られるのだ。
 じっとオセロマイト王を見つめる事一分弱。おもむろにオセロマイト王が玉座より立ち上がり、私の目の前まで歩いて来て、

「…………フォーロイト帝国の姫君ともあろう御方になんたる無礼を…我が国の非礼、余が代わって詫びさせて頂く。本当に申し訳無い。どうかこの謝罪を受け入れてはくれぬだろうか」

 頭を下げたのだ。それにはお偉いさん達も「陛下っ!?」と驚愕し、隣のマクベスタも「父上……」と複雑な面持ちでこぼしていた。
 一国の王が頭を下げて誠意を見せたのに、許さない訳がないでしょう。ちょっとやり過ぎた気がしないでもないが、とりあえず私はオセロマイト王の謝罪を受け入れる事にした。

「……誠意には誠意を。御顔を上げてくださいまし、オセロマイト王。貴方様が私《わたくし》に誠意を見せて下さるのであれば、私《わたくし》も相応の誠意をお見せします……こちらこそ突然無礼な態度を取ってしまい申し訳ございません。このような危機的状況だからこそ、野次馬の騒ぎ程度の事に足を取られる訳にいかなかったもので」

 ニコリ、と微笑みながら話す。
 あれ、あんまりお前の誠意見せてなくね? と思っただろう。寧ろ言い訳してね? とも思っただろう。
 いいんだよそんなの後で。私はこの後、緑の竜を何とかするって言う最上級の誠意を見せるつもりなのだから!
 ──誠意って言葉を一回辞書で引け。そんな声がどこからともなく聞こえた気がするが気にしない気にしない。
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