だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

82.オセロマイト王国にて4

 誰とも接触しないように外で待つ事十分程……ようやく大臣が人数分の手袋を用意して戻って来た。
 その後大臣と共にマクベスタが、歌劇場に集められた感染者達の情報を纏める為にと何処かに行ってしまった。
 手袋を着けてリードさんとシャルが勇み足で再度歌劇場へと足を踏み入れ、感染者の治癒にあたろうとした時。
 不安が抑えきれなかった私はふと呟いてしまった。

「…………毒も病も呪いさえも帳消しに出来る治癒魔法って無いのかな……あったら最強なのに……」

 こんなの願望に過ぎない。光の魔力や治癒魔法に明るくない人間による馬鹿みたいな願望。
 これは私の虚しい独り言として消えゆく筈だった。しかし、リードさんがこの独り言に反応したのだ。

「あるよ、そう言う魔法」

 人の良さそうな爽やかな笑顔で、リードさんはサラリと言った。私は溢れんばかりに目を見開き、「本当ですか!?」と彼に詰め寄った。
 リードさんは一瞬驚いたように肩を跳ねさせ、

「う、うん。まぁかなり面倒な魔法だからそれなりに疲れるし魔力も消耗するけど……ありとあらゆる悪を抹消する光魔法があるにはあるかな。それ使った方がいいならそれ使うけど……」

 と人差し指を立ててにこやかに説明した。何だか物騒な言葉が聞こえた気がするが、そんな便利魔法があるのなら是非とも使って欲しい。
 私はそのリードさんの手をこの指とまれみたいな感じでぎゅっと両手で握り、懇願した。

「お願いします、リードさん! その何だかとにかく凄い魔法を!!」
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ、ちゃんとやるから。誰かに頼ってもらえるのはいつでも嬉しいものだからね」

 リードさんはそう快く了承した後私の手をゆっくりと離して、「何だかとにかく凄い魔法かぁ……」とくすくすと笑っていた。
 内容がよく分からないのだから仕方が無いでしょう、語彙力の無さはもう置いておくとして。と少しムスッとしながらリードさんを睨むも、彼は早速準備に取り掛かっていた。

「王女様、俺が具体的に何をすればいいのか実はよく分かってないんだが……とにかく体の中の悪いものを全部無くしてしまえばいいのだろうか」

 リードさんを睨む私に近寄りつつ、シャルがそう声を掛けてきた。私の説明が曖昧だったばかりに……。
 ディオとイリオーデなんて、(分かってなかったのかお前……)って言いたそうな顔してるもの。私の説明が雑だったばかりに!

「とにかく人間の体に毒なものは全部消し去ってくれて構わないわ。思いっきりやっちゃって!」
「分かった、思いっきりやっちゃおう」

 シャルは大真面目な顔で頷いて復唱し、リードさんと同様に感染者達の方へと向かった。
 不安と緊張ではやる鼓動を必死に落ち着かせ、彼等を信じて待つ。
 程なくしてリードさんが「できるかなぁ……やるしかないなぁ……」と緊張した面持ちで呟き一度深呼吸をしてから、彼は祈りを捧げるように両手を合わせ、治癒魔法を使用した。
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