だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……無理だけはしないでね」

 私が何だかとにかく凄い魔法を使ってくれと頼んだからリードさんはあれ程までに消耗してしまった。そう、考えると……私にこんな言葉を言う資格なんて無い。
 だけどこれ以外に言葉が見つからなかった。呪いの事は言えないし、私が一人で何とかしに行くとも言えない。
 だからこそ、こんな無責任な言葉しか……。

「無理なんてしてない。俺は、俺達は……ただやるべき事をやってるだけだ。少なくとも俺は……俺達に初めて手を差し伸べてくれた王女様の為に、俺が出来る事をやりたいんだ」

 少しだけこちらを振り向いて、シャルがふっと笑った。滝のように汗が流れているにも関わらず、その表情はとても穏やかで……とても優しいものだった。

「汗、拭くね。どこかに余った布とか……」

 私の我儘に着いてきて、こんなにも頑張ってくれているシャル達に少しでも報いたい。
 だから私は彼の顔に浮かぶ大量の汗を拭いてあげようとしたのだが、綺麗な布が無い。探しに行こうと立ち上がろうとした時、私の目の前に探し物が差し出された。

「はい、綺麗な布ならあるよぉ」
「シュヴァルツ。そう言えばどこにいたの……?」

 シュヴァルツがタオルぐらいの大きさの布を渡して来たのでそれを受け取り、私はふと、先程から少しの間全く姿を見なかったシュヴァルツにどこにいたのかと尋ねた。
 シュヴァルツは二、三度瞬きをした後笑顔で答えた。

「えっとねぇ、リードの神聖十字臨界《セイクリッド・ペトロ》の光に驚いて部屋の外まで出ちゃったの。ほら、すっごく眩しかったでしょー?」
「確かに凄く眩しかったわね。でも急にいなくなるからびっくりしたじゃない」
「えへへっ。ごめんなさい」

 シュヴァルツのふわふわな頭を撫でてあげると、まるで子犬のようにシュヴァルツは満足気にはにかんだ。
 一度、シャルの手伝いをするから後ろで大人しくしててね。とシュヴァルツに告げ、私は予定通りシャルの汗をそっと拭く作業に取り掛かった。
 程なくして、ついに一人目の解呪が完了した。大柄な男性は元気になった自身に感激し、シャルの事を拝んでいた。
 しかし当のシャルはその謝辞を長くは受け入れず、すぐさま次の感染者の元に向かった。
 その後は同じ事の繰り返し。シャルの体力と気力とが持つまで、ずっと同じように解呪しては汗を拭きを繰り返した。
 十一人程を治した辺りでついにシャルの体力が底をつき、この日はもう日も暮れていた為ここで終わりとなった。
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