だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……そんなまさか。あのブレイドが殿下以外の人にこれだけ懐くなんて」

 愕然とする騎士が何か呟いているようだったが、私はブレイドの声で掻き消されてあまり良く聞こえなかった。
 そして去り際にブレイドに向けて小声で「また後で来るわ」と告げ、私は厩舎を後にした。
 部屋へと戻る際に、ダメ元で騎士に「私《わたくし》も万能薬がいくつか欲しいのですが……駄目でしょうか?」と上目遣いで頼んでみた所、首が折れ曲がりそうな勢いで顔を逸らした騎士からオセロマイト王へとその旨が伝えられ、その結果私の手元には四本の万能薬がある。
 これとこの前買った保存の効く食料を持って、深夜のうちにこの街を抜け出そう。
 誰にも知られてはいけない。誰にも付いてこられてはいけない。これは、私にだけ許された極秘任務なのだから。
 そして、もう寝るからと侍女を下がらせて……私は寝たフリをした。

 深夜になると私は書き置きを用意し、念の為に持ってきておいたいつものシャツとズボンに着替え……邪魔になりそうな髪を一つに纏めた。
 鞄を肩から提げ、こんな事もあろうかと持ってきておいたソードベルトを腰に巻き、愛剣を佩く。
 最後にローブを羽織り、私は音を立てぬようゆっくりと窓を開け……窓から下を見下ろして人がいないのを確認し、城壁で水を氷に変えて階段擬きを作り降りていった。
 勿論、念の為に全反射も行っている。おかげさまでそれはもう疲れる。
 しかし止まる訳にもいかず、私は落ちるかもという恐怖心を捨てて駆け足で氷の階段を降りてゆく。そして地面に降り立った所で、全ての氷を水に変えて証拠隠滅。
 続いての問題はどうやってブレイドを外に連れ出すかだが…………全反射でいけるかしら。馬程大きな生き物でやるのは初めてだから上手くいくか分からないわ。まぁ、やるしか選択肢は無いのだけれど。
 とりあえず息を潜めて厩舎に向かい、お得意の鍵開け術で楽々侵入。そして一度休憩も兼ねて全反射を解除した。
 ブレイドの前に立ち、私は尋ねる。

「ねぇ、ブレイド。これから私はこの国を守る為に遠くに行こうと思うのだけれど……私を乗せてくれるかしら?」
「ブルッ、ブルルル」
「……ふっ。ありがとう」

 穏やかな面持ちのブレイドはどうやら私の申し出を快諾してくれたようで、後肢で地面を蹴っている。
 厩舎からブレイドを連れ出し、私は全反射を使おうとしたのだが……突然明後日の方向へと駆け出して。
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