だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……外、歩いてこよう」

 気分転換は大事だ。軽く着替えた後、僕は少しの荷物を胸ポケットに入れた。そして部屋の窓を開け放ち、そこから飛び降りた。
 これぐらいの高さならば身体強化の付与魔法《エンチャント》で軽々行ける。昔も、よくこうして修行から逃げだしたものだ。
 纏める事すら億劫でそのまま放置していた髪が、風に押されて上空で荒ぶる。地面に着地すると、その髪と上着の裾がふわりとホオズキのように膨らみやがて落ち着きを取り戻す。

「ん? 夜のうちに雨でも降ったのかな……」

 ふと上を見上げると、城壁に謎の……水の跡と思しき跡があった。だが昨晩雨が降った様子はない。
 つまりただの不可思議で不自然な跡という訳だ。そもそも寝起きで頭が働かないし、あの不愉快な夢の所為で深く考える気にもならない。
 僕は結局、それを調べる事もなく歩き出した。柔らかい朝日が差し込む草の上を歩く。とても静かで穏やか……まるであんな恐ろしい病に襲われているとは思えない程、平和な空気だった。
 朝日が気持ちいいなぁ……と思いつつポケットからお気に入り(全体的に小さめの特注品)のパイプを取り出し、光魔法の間違った使い方にて点火する。
 ちなみにこの間違った使い方というのは、太陽光を一点に収束させ照射するというもの。昔修行とやらで魔物が跋扈する洞窟に閉じ込められた際に暖を取るべく習得した技だ。
 あの時はついつい父親の事を『クソ親父!!』と叫んでしまったな。我ながらまだまだ若かったのだ。
 いやぁ、光魔法で擬似太陽が作り出せて本当に良かった。おかげさまでいつでもどこでも簡単に煙草を窘める。

「っふぅー……こんな所彼女達に見られたら不味いなぁ。まだ辛うじて真面目で優等生な僕って思って貰えてるんだから、化けの皮が剥がれないように気をつけないと……」

 こんなどうしようもないろくでなしが本性だってバレたら、確実に期待を裏切ってしまう。確実に見損なったと言われ嫌われる事だろう。
 ……はは、何なら昨日の体たらくで既に見限られてるかもしれないな。やだなぁ、せっかく久しぶりに対等に話せる人達と出会えたのに、速攻で嫌われるとか。
 特に……彼女に嫌われるのは、何だかとても辛いな。理由は分からないけれど、あの子の期待を裏切るような真似だけはしたくない。
 期待という言葉が何よりも苦手な僕だけれど、珍しく、そう思えてしまった。
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