だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 ──口から煙を吐き出しつつ思い返す。
 昼間から働きもせず酒を煽って騒ぎ倒す人の形をしたゴミ共が多い店に一人……(と猫一匹?)でいた女の子。
 不思議な格好をしていたが、その纏う気品や所作は全て洗練された王侯貴族のそれ。何より本人がとても可愛らしい容姿をしている。
 そんな少女が一人で食事をしていたので、周りのろくでもないゴミ共は下卑た笑みで少女を狙っていた。
 それに気づいた僕はそれはもうめちゃくちゃ不自然に声をかけた。
 とにかくこの店から出せばいい。その後は特に考えてなかったものの、とりあえずこの汚いゴミ共に少女が一人で囲まれている現状がとてもよろしくないので、普通の少女なら危機感を抱くであろう言葉を言いながら近づいたのだが、空振りだった。
 あの子本当に変。本当に変わってる。自分が目立っている自覚は一応あったようだが、でも危機感は特に抱いてなかったらしい。
 そしてまだ暫くその場に居座るつもりなのだと僕は気づいた。一人にする訳にはいかなかったので、僕も彼女が退店するまで付き合う事にした。
 特に予定もアテもない旅だからこれでも全然いいのだ。

 その後話のネタにと僕はこれまで旅してきた国々の話をした。少女……スミレちゃんは相当箱入りだったのか、僕の話を全て興味深そうに瞳を輝かせて聞いていた。
 こんなにもいい反応をして貰えるのなら、僕の旅も意味があったんだなと思えて……ついつい僕自身、この時間を楽しんでしまっていた。
 楽しい時間程早く終わりを迎えるというもの。スミレちゃんは家まで送るよという僕の申し出を断り、一人で帰って行った。
 本当に大丈夫かなぁ、何かすごーく嫌な予感がするんだけど。
 と思いつつ泊まっている宿に戻った。そしてその予感は見事的中してしまったのだ。
 その日の夜、部屋の窓を開けて煙草を吸っていると近くの通りの方から騒ぎが聞こえて来たのだ。やはり嫌な予感がしたので様子見に向かった所、一人の男……ディオとすれ違いざまにぶつかった。
 怪我をさせてしまったのなら申し訳ないなと思い、治癒を申し出たのだが……気がついたら子供達の治癒をする事になっていた。
 別にいいんだけどね、僕に出来る事なんて本当にそれぐらいだし。人の役に立てるのならそれが最良なんだよ。
 ただ更なる事件が起きた。暫くしてディオが見覚えのある少女を抱えて現れた。
 少女の腕にはこれまた見覚えのある剣が抱かれていたのだ……。

 あっれーーーーーーー???
 何でこんな所に凄く怪我したスミレちゃんがいるのかな? というか家帰ったんじゃなかったのか??
 という動揺を必死に隠しつつ、僕は彼女の治癒に挑んだ。これがまた大変だった。
 彼女が怪我したのは足だったんだ! 治すから見せてと言ったら、あの子、何の躊躇いもなくスカートたくしあげてさ! 許可無く女性の肌見る所だったんだけど!?
 それなりにちゃんとした教育を受けていたからか、僕の体は頭で理解するよりも早く動いた。
 でもこれ治す時には見ないといけないよな……かなり失礼だし、彼女としてもとても恥ずかしい事の筈だ。そうか、彼女今とても気丈に振舞っているんだ。
 それなのに僕はなんて馬鹿な態度を……本当に出来損ないだなぁ僕は! と自分に喝を入れ、本当にごめんなさいと心の中で謝りながら傷口を診る。
 唖然とした。包帯代わりにと雑に巻かれた血濡れの布切れの時点で予想はしていたが……そこには、普通に生きてたら貴族令嬢の足に出来る筈もない深い傷跡があったのだ。
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