だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

85.ある青年の使命

「ねぇこんな時間になーにしてるの、リード」

 長々と物思いに耽っていた僕を、誰かが呼んだ。その無邪気な声に引っ張られるようにぎこちない動きでそちらを向くと。

「…………随分と早起きだね、シュヴァルツ君」

 そこには、楽しそうにニコニコ笑みを浮かべる少年が立っていた。
 まっっっっっっずい。非常〜〜〜〜〜〜にまずい。
 急いでパイプを体の後ろに隠し、冷や汗を滝のように流しながら僕はなんとかガタガタの笑顔を作る。しかし無邪気な少年にそれは通用しなかったようで。

「人気のない所でボーっとしながら煙草吸ってるリードの方が、ずぅっと早起きだよー」

 なんか意外〜。と言いながらシュヴァルツ君は僕のすぐ側まで駆け寄ってきて、煙草の臭いを嗅いでは「あーこういうタイプの……」と呟いていた。
 はぁ、どうしたものか。化けの皮が剥がれないようにって考えていたのに。物の見事にバレてしまったよ。
 重苦しいため息を大きくつき、もうこうなったらと自棄《ヤケ》になって僕は独りでに語りだした。

「……やっぱり似合わないでしょう? 真面目で優等生の僕には。酒も煙草も…………」
「どしたの急に。自分語りで感傷に浸ってる感じー?」
「……君、見かけによらずめちゃくちゃ辛辣だね」
「見かけによらないのはそっちもでしょぉ」

 笑顔で辛辣な事を言うシュヴァルツ君。中々どうして……この無邪気な少年の言葉は胸に刺さるじゃないか。
 うん、少し心が痛いぞぅ。

「……はは。見かけによらないどころか、僕はずっとよく思われたくて優等生《いいひと》を演じ続けてたんだ。本性はこんなにも卑屈で面倒で誰の期待にも応えられない出来損ないなのにね」

 自嘲気味に語り続けていると、シュヴァルツ君が「でもさ」と口を切った。

「人間ってそういうものでしょ。本当に一切自分を偽らない人間なんて世界中探しても絶対にいない。だから何かを演じてるっていうのは全然おかしくない事だと思うけど」

 その手元でパイプをクルクルと回して手遊びをしながらシュヴァルツ君は話した……って待って、あれ僕のじゃないか。いつの間に取られたんだ……!?
 と驚愕する僕を置いて、彼は更に続けた。
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