だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(──荒らされた形跡も争った形跡も無い。そもそも侵入者が現れたとなればそれ相応の音がする筈だ。私が気付かぬ筈が無い……っ)

 音も無く姿を消したアミレスの事で珍しく気が動転しているイリオーデは、粗くなる呼吸を正す事無く必死に頭を動かしていた。

(ならば、それならば何故王女殿下はここにいない? 王女殿下がいなくなるなんて、駄目だ。私の、私の所為で──ッ!?)

 その瞬間。イリオーデの脳裏に数日前に見た悪夢が蘇る。
 ──記憶に無い未来。ぐしゃぐしゃに握り潰された一束の新聞に、絶える事の無い嗚咽と涙を落とす自身の姿。
 その新聞の一面に大きく書かれた、とある大罪人の死──。
 それを思い出し、イリオーデは叫び出しそうになる口を片手で押さえた。頬に爪が食い込もうとも、頬を爪で傷つけようとも、今のイリオーデは気づけない。
 飛び出そうな程見開かれた瞳で、イリオーデの心象を表すかのように瞳孔が震える。足に力が入らないのか、彼の体がフラフラとし始める。
 そんなイリオーデの異変に気がついたシャルルギルが彼に近寄り、その肩を支えた。

「どうしたんだイリオーデ。顔色が酷いぞ」
「……っ、ぅ…………」
(……もしかして。イリオーデが変なのは王女様がいなくなったから……?)

 シャルルギルがイリオーデに具合を尋ねるも、イリオーデはそれに返事をする事も出来なかった。
 そして……そのイリオーデの尋常ならざる様子から、シャルルギルは理由を察してみせたのだ。そしてシャルルギルは語りかけた。

「今、どうしてかここに王女様はいない……だけど。何があったにせよ、あの人が無事じゃないはずがない」
「……っ」
「とにかく手がかりを探そう。何かあるはずだ……今シュヴァルツとディオが探している、俺達もそこに加わろう」
「…………ぁあ……」

 シャルルギルの言葉に考えさせられたように俯くイリオーデ。シャルルギルの言う通り、何か手がかりなどは無いかとシュヴァルツとディオリストラスが部屋の中を調べて回っている。
 そこに加わろうという提案を、イリオーデは小さく震える唇で受け入れた。
 四人で手がかりの捜索を始めてから程なくして、シュヴァルツが長椅子《ソファ》の下から一枚の紙を見つけ出した。
 恐らく、机の上に置かれていた紙が何らかの拍子に長椅子《ソファ》の下へと落ちたのだろう。
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