だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……緑の竜を眠らせたのは白の竜……それにあの看板…………」

 ぶつぶつと呟きながら私は考えを巡らせた。その末にある一つの仮説を立てたのだ。
 それは──白の竜が緑の竜を何らかの理由で守ろうとした説。
 こんな人が寄り付かないような場で、涙を流しながら緑の竜を眠らせたという白の竜。そしてここに来るまでにあった明らかに怪しい看板と魔法陣……あれは白の竜が用意したものなのではと私は考えた。
 何らかの理由から緑の竜を眠らせる必要があった為、もしもの時は人間へと緑の竜を託そうとして……と考えれば、あの妙に親切なここへと誘導する看板と魔法陣にも説明がつく。
 いつか習った竜種にまつわる歴史を必死に思い出した事により、私はその"何らかの理由"にも少しの心当たりが出来た。
 なので、その仮説を確かなものへと変える為に私は緑の竜に確認した。あなたと白の竜は仲が良かったのか、と。
 答えはYes。白の竜は一番緑の竜を可愛がってくれていた心優しき姉だったらしい。
 ──つまり。看板の『あの子をよろしくお願いします』という言葉は、そのままの意味だったのだ。

「ねぇ、緑の竜。これはあくまでも私の仮説に過ぎないのだけど……きっと、白の竜はあなたを守りたかったからここで眠らせていたのよ。ここなら普通の人間は近寄れないから」
『……われを、まもるため…………?』

 ピクリと緑の竜が反応する。私は一度頷いてから更に続けた。

「今からおよそ百年前に赤と青の竜が人間に討伐された。その二十年後に白の竜は人間達に封印されたのだけど……この事は知ってる?」
『ッ?! あかと、あおのあにうえが……にんげんに、ころされた、じゃと……? あねうえ、も…………ふういん、され……』
「……やっぱり、あなたはこれより前にもう眠らされていたのね」

 緑の竜がツタを引きちぎってでもボロボロの体を無理やり起こそうとして、ふらっと倒れ込む。巻き起こる土煙の中から、黄金の鋭い瞳孔が恨めしそうに私をとらえている。

「白の竜はきっとあなたを人間達の脅威から守る為に眠らせたの。万が一にでも人間に見つからないよう、こんな……強力な魔物や動物で溢れかえっていたらしい、地下大洞窟の最奥で」

 ここに来るまでの道で、呪いに侵されたらしき生き物だった何かを多数見たのだが……その特徴的な模様や身体からかなり強力な魔物なのではと。
 そんな所、今のような非常時でなければ魔物がうじゃうじゃいて人間は無事でいられない。
 だからこそ白の竜は託したのだ……地下大洞窟を嗅ぎつけある程度魔物溢れる道を進む事の出来る強き人間が、緑の竜を助けてあげる事を。
 ……その人間が緑の竜を殺す事になるかもとは考えなかったらしい。恐らく、白の竜も相当切羽詰まった状況だったのだろう。

『……あねうえ、は……われを、まもろうと?』
「ええ、きっと。あなた達を虐げた人間側の言葉なんて信用出来ないだろうけれど……私はそう考えた。白の竜は、お姉ちゃんとしてあなたの事を本当に心配していたんだって」
『…………おまえは、あかと、あおの……あにうえをころした、わるいにんげん……じゃない。われ、りゅうじゃから……みれば、わかるのじゃ』

 緑の竜は私に向けていた憎悪の矛を収め、ふんっと言いながらそっぽを向いた。
 同じ人間だからって恨まれる覚悟ではあったけれど……どうやら私の事はいい人と認識してくれたらしい。
 というか、それよりも早く緑の竜を助けてあげないと。瀕死の状態らしいし。
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