だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「…………緑の竜?」
「そうじゃ。どうだ、泣き止んだか?」

 翡翠色のロリっ子は眉尻を下げてこちらの顔を覗き込む。
 あまりにも驚き過ぎて涙引っ込んだわ。ついでに溢れ出てた感情もまた堰き止められたわ。
 なんか可愛いなぁなんて考えてたけど、緑の竜が本当に可愛いなんて。
 腕に力を込めて上体を起こす。そして私は緑の竜と向かい合ってその可愛い顔を見つめた。

「……可愛い……」
「む? 当然じゃ。我の擬態時の見目は姉上達もよく褒めてくれたからの!」
「…………」
「何故無言で頭を撫でるのじゃ……本来であれば不敬だと吹き飛ばすのじゃが……お前は特別よ。そうじゃ、お前の名を教えよ。我自ら呼んでやろうぞ」

 ふふんっ、と上機嫌な緑の竜が名を聞いてくる。
 ……さっき一応名乗ってたんだけどなぁ。まぁ瀕死だったから聞こえてなかったんだろう。

「私はアミレス。あなたの名前は?」

 ずっと緑の竜では呼び辛い。なので名前を教えてくれと頼んだのだが……その瞬間、竜はとても暗い表情をした。

「…………竜に名は無い。色が個体を表す名のようなものじゃったからな」

 あっ……と私は口を噤む。それはそうだ。名があったのならそれごと後世に伝わる筈……歴史の本でそれが伝わっていなかったのであれば、きっと名は無かったのだろう。
 少し考えれば分かった事なのに、私はなんて無神経な事を……。
 だからこそ、ここで終わる訳にもいかないと私は提案する。

「じゃあっ、私がつけてもいいかしら? あなたの名前を」
「お前が……我の名を?」

 きょとんとする竜。その頬は僅かに紅潮しており、好反応なのではと私に感じさせた。
 その後、緑の竜はもじもじとしながら小声で「……特別に許す」とこぼした。それを合図に私は名前を考え始めた。
 緑……グリーンはなんかなぁ、似合わない。自然から取るか? 自然……ナチュラル……ナトラ………。
 ナトラって可愛いな、よし。これに決めた!

「ナトラ、っていうのはどうかしら。自然って意味の言葉なのだけれど……」

 まるで月のように丸く見開かれる黄金の瞳。静寂の長考の後、緑の竜は嬉しそうに頬を綻ばせた。

「──ナトラ。ナトラ……くふふっ、我だけの名! 自然とな、緑の竜たる我に相応しい名じゃな! 褒めて遣わすぞ、アミレスよ!!」

 満面の笑みを作り無邪気に飛び跳ねる緑の竜……ナトラを見て、私も自然と頬が綻んでいた。
< 384 / 1,370 >

この作品をシェア

pagetop