だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「まず、二日前から歌劇場で来る者拒まずの治療をしている方達がおりまして、その方達が治療後にこう語ったのです──『僕は彼女に頼まれたからやっているだけに過ぎないので……感謝はいずれ、彼女に』『凄いのは俺じゃなくて王女様だ。俺を褒めるのは間違っている』と。彼等の謙虚な姿勢とその言葉に、『我々の為にこのような素晴らしい御方を遣わして下さるなんて、帝国の王女様は心優しき女神様なのでは……』『聖女様……』とその日から評判が広まり始めたようです」

 僕もここに到着したのは昨日の昼でしたので、あくまでも伝聞でしかありませんが……とミカリアは付け加えた。
 唖然とする私を置いて、彼は更に続ける。

「その少し後に、南部の方々の治癒を終えた僕とラフィリアがこの街に到着しまして。ここに来たのは姫君に依頼されたからと話した所……『国教会の方を動かすなど、やはり彼の御方は聖女なのでは!?』『女神様の生まれ変わりの聖女様に違いない!』『聖女様!』とどんどん噂が愉快な方向に転がり始めまして」

 ……神々を崇める国教会として、女神の生まれ変わりだとかの妄言は無視出来ないものの筈なのに。何故かミカリアは何でもないかのように話す。
 そうやって明るく話すも束の間、ミカリアは心苦しそうな面持ちで続けた。

「本当はもっと早くこちらに来るつもりだったのですが、国教会の方も色々と立て込んでまして……予想以上に日数を要してしまったのです。遅れてしまいすみません」

 この時点で私は額に手を当てて観念していた。情報のスクランブル交差点で行先を見失っている感覚だ。
 しかしミカリアの話はまだ終わってはいなかった。ミカリアは心機一転とばかりに飲み物で喉を潤して、

「話を戻しましょう。そこに更に、昨日の夕暮れ頃にあのシャンパー商会より姫君が手配した沢山の食材等が届きまして……その話も飲み込んだ例の噂は目にも止まらぬ速さで広まってゆき、その結果、貴女の兄君に倣い『氷結の聖女様』と敬われるようになったのです!」

 意気揚々、最後までしっかりと語り切った。いやフリードルとお揃い(?)の二つ名とか嫌。絶対嫌よ、私。
 あまりにも衝撃的な話に私はショックのあまり机に突っ伏した。
 なんっでそうなるかなぁぁあ……! と声にならない声で唸りつつ、ドンドンと何度も机を叩く。
 その姿に同じテーブルに座る人達は「どうしたのじゃ?!」「姫君!?」「様子、異常」と驚いているようだった。ヒリヒリと赤くなった額を擦りながら顔を上げる。
 思案顔で治癒しましょうかと提案してくるミカリアに向け、これぐらいは平気と告げる。
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