だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

93.緑の竜6

「だ、だってほら……私のようなぽっと出のただの人間が聖人様の御名前を呼ぶなど、聖人様に仕える方々が許す筈も無いでしょう?」

 アワアワしながら必死に言い訳を述べる。
 実際、ゲームであのミシェルちゃんですら許されなかったんだから。私みたいな悪役令嬢もとい悪役王女が許される訳無いんですよねぇ〜!
 しかしミカリアにはこの訴えも全く効いていないようで。

「姫君を相手に文句を言う輩が国教会にいたのであれば、等しく粛清しますので御安心を!」

 まさに聖人君子といった輝くご尊顔で彼は宣言した。
 何も安心出来ない。それつまり正論を口にしただけで粛清されるって事でしょ? あまりにも独裁政権が過ぎるぞ国教会。
 いくらミカリアの存在が大きいからってそんな……──いや、待てよ。相手は聖人……国教会の事実上のトップ……つまりミカリアさえ味方に出来てたらもしもの時国教会が守ってくれるのでは?
 そうだよ、ミカリアはあの皇帝相手に強く出られる数少ない人物じゃないか! 仲良くしてて損は無い!
 大司教にシメられるかもという懸念はあるが、聖人と仲良くする事で皇帝が私に手を出しにくくなる可能性も十分にある。
 断るにはあまりにも惜しい話である事に今気づけて良かった! それに、よくよく考えたら聖女なんて呼ばれ方も名声としては中々に良いのでは?? いかにも手を出しにくそうじゃないか、氷結の聖女。
 これに気づくとは私ってば天才ね……ふっ……。

「……本当に宜しいのですか?」

 眉尻を下げ、口元に手を当てて小首を傾げる。
 急に意見を変えたらミカリアとて何か裏があるのではと私を疑うかもしれない。しかしこれが打算であるとミカリアにバレてはならないのだ。
 なので細心の注意をはらい、あくまでもミカリアに押し切られたからそう呼ぶようにした。という体を保つ!

「ええ勿論! 僕の事は是非、ミカリアと!」

 何だか全く疑う様子などなく……ミカリアは明るい笑顔を見せた。
 うっわ罪悪感が……と良心に次々槍を刺されるような感覚に陥るも、

「……ではミカリア様と呼ばせていただいても宜しいでしょうか?」

 私は心を強く持ち、これで構わないかと彼に確認する。
 するとミカリアはこれまた嬉しそうな笑顔で「はいっ」と元気よく返事をした。
 ──神よ、こんな私を許さないで下さい……彼の純情を踏みにじった私を罰してください…………と心の中で懺悔する。
 こうしてミカリアとの話は終わり、私はついに城……ではなく、先に歌劇場に向かう事にした。何でも歌劇場前で皆が炊き出しを行っているとかで。
 左手でナトラと手を繋ぎ、右手でブレイドの手綱を握る。私の両手両隣は見事埋まっていた。その為ミカリアとラフィリアは私達の前を歩いているのだが、後ろ姿だけでも本当に神々しい。
 ……それにしても。

「なぁおい、あの銀色の髪……!」
「そうよね! じゃああの御方が……!!」
「氷結の聖女様だ! 氷結の聖女様がいらっしゃるぞ!」
「嗚呼……なんとお美しく可憐なのだ…………」
「せいじょさまー! たすけてくれてありがとーっ!」
「聖女様ー!!」
「おれ達の救いの女神様だーー!」

 噂の広がり具合半端ないわね!? 通りを歩くだけでこんなに叫ばれるものなの?!
 ぎゅっと唇を結び少し俯き気味で歩く。受け入れたとは言え恥ずかしすぎて顔が熱くなって来た頃、凄く楽しそうにミカリアが振り向いて、

「大人気ですね、姫君」

 微笑んだ。貴方のせいでもあるんだけどね! 貴方が私に頼まれてとか言わなれけば! こんな事には!!
 と心の中で叫んだ所でミカリアには届かない。

「どうしたのじゃアミレス。あやつ等が鬱陶しいのか? 我が何とかしてやろうか?」

 ナトラが観衆を一瞥し、空いている手を力強く握った。

「とりあえずその握った手を開いてみようかー」

 急速に精神的に疲弊した私はナトラに説教などを行う余裕も無かった。なので、やんわりと断りを入れてそのまま進む。
 ナトラはとても正直な子なので開くように言われたらすぐに手を開いた。
 いい子だねーえらいねー、後で何かお菓子あげるねー。と告げると、ナトラは首を傾げて「さっきの干し果物より美味いのか?」と聞いて来た。
 それはナトラ次第だけど私は好きだよ、お菓子。と返事すると、ナトラは「なら貰ってやるのじゃ」と上機嫌になった。
 可愛いなぁナトラは……と緩む頬を律していると、ついに歌劇場に到着した。
 確かに、その入口の前には炊き出しに並ぶ人達らしき大きな人だかりが出来ていて、何故か黄色い悲鳴すら聞こえてくる。
 よくよく見ると、この人だかり……女性が多い気がする。
 誰かが炊き出ししてるのよね。何となく心当たりがあるんだけど…………絶対あの人達だろうなぁ。皆顔整ってるし。
 どうやって歌劇場に入るか考えあぐねていたその時。聞き覚えのある声が耳に届いた。
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