だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(これ美味しいなぁ…………)

 大きな口でサンドにかぶりつき、もぐもぐと咀嚼する。そんなリードの事を物陰からきゃあきゃあと眺める女性達がいた。

「なんて美しいのかしら……! あの憂いを帯びたお顔!」

 疲れているだけである。

「酒や煙草に溺れて女に暴力振るわなさそうないい人……」

 暴力は振るわないが酒と煙草は大好きな男だ。

「あの深い緑の髪……聖女様が遣わした緑の守護者に違いないわ……!!」

 断じて違う。
 これは氷山の一角に過ぎないが……このように多くの女性達が騒いでいた。彼を遠目で眺める衆目の目には、リードの姿が一種の宗教画に見えているようだった。
 ちなみに、この頃には既に『銀髪に青系統の瞳をした聖女』の噂が街で飛び交っている。
 彼等がここに来た初日、大人達に囲まれ異彩を放つ一人の少女…………その姿が人々の記憶に強く残っていた。そこにシャルルギルとリードの謙虚な姿勢が合わさり、結果──氷結の聖女という名称が広まったのだ。
 見目の整ったリードは元より女性に騒がれやすかったのだが今回の功績も相まってそれが激化している。が、リードはそれに気づかない。
 慣れている上に今は疲れているので仕方ない。

(何か外が騒がしいな……)

 リードは窓の方を見遣りふと思う。その騒ぎの原因が国教会の聖人である事など、この時のリードには知る由もない事だった──。


♢♢♢♢


 夕暮れ時、王都ラ・フレーシャは更なる騒ぎに包まれた。
 それは何故か──突如として上空に現れた飛空船が理由であった。誰もが初めて目にする未知のものに驚愕し、目を奪われていた。
 やがてその飛空船は王都の外れにある草原に着陸する。錨のように船体から四本の棒を地面に向け穿ち、それにより地面と繋がった船体は安定し、陸にも着地出来る様になったという訳だ。
 マクベスタ達を初めとした国の大臣等の重役達に兵士達……そして何事かと見物に来た民衆達が、着陸した飛空船の周りにて固唾を飲む。
 もしもの場合は即座に攻撃出来る様にと兵士達はそれぞれ武器を構えていた。
 そして。少し経った頃……その飛空船から一人の少女が姿を見せた。
 夕日に照らされて濃くその深みを増す深海のような藍色の長髪。みずみずしい果実のように赤く輝く真っ赤な瞳。
 その姿を見たマクベスタは目を見張った。
 まるで人形のような愛らしさを持つその少女は、飛空船の周りに出来た人だかりを見下ろし、ふぅ、とため息をついた。
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