だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(相手があの竜種と分かってもあんな風に話せるなんて、彼も結構な大物だな……姫君の私兵と聞いたけれど、流石は姫君の選んだ人だ)

 中にはミカリアのようにあまり関係の無い事に感心する者もいるが。
 そしてついにナトラが一つ目の問を口にした。

「──アミレスは安全な環境で生きておるのか?」

 その問にほぼ全員が言葉を失った。答え方が分からない…………いや、答えられないのである。
 それは彼女の血筋……家系故か、否。それは彼女の置かれた立場故か、否。それは彼女の住む場所故か、否。
 それは──彼女の語る悲惨な運命故であった。
 この場においてそれを知るのはディオリストラス、シャルルギル、イリオーデ、マクベスタの四人。
 それは知らずとも彼女の置かれた境遇を知るのはメイシア、リード、ミカリア、ラフィリアの四人。
 ある者達は彼女の語る悲運に口を閉ざし、またある者達は彼女の立つ悲劇に口を閉ざしたのだ。
 誰もがナトラの問に答えられない今、ただ静かに時間だけが過ぎてゆく。

(何故こやつ等は誰も答えぬのじゃ? 我の問に答えたならばお前達の問にも答えると言うたのじゃが……もしや我を馬鹿にしておるのか? 人間の分際で? なんじゃこいつ等ぶっ殺してやろうか)

 予想外の状況にナトラは少しムッとした。流石のナトラも、ここまで答えを迷われるとは思ってなかったのだ。
 さっさと答えればよいものを……とナトラが苛立ちを募らせる。

「……おい、聞いてるのか人間。疾く答えよ。アミレスは安全な世界で生きておるのか否かを!」

 痺れを切らしたナトラが竜種のオーラを放ち威圧しようとした瞬間。ついに答えを口にする者が現れたのだ。
 もっとも──それはこの中の誰かではなかったが。

「半分正解半分不正解だよ、緑の竜」

 淡い光を全身に纏いながらその男は突然現れた。それはほとんどの者達が初めて見る人智を超えた美男子。
 男は紅の三つ編みを揺らし、腕に一匹の猫を抱えていた。

「師匠……!?」
「エンヴィー様……!」

 マクベスタとメイシアが彼の登場に声をもらすと、エンヴィーは「よっ、マクベスタにお嬢さん」と空いている方の手を軽く上げた。

(マクベスタ王子と王女殿下の剣の師匠……!)
(あれが…………確かになんかすげぇヤバそうな存在だ……)
(あの猫は王女様の愛猫じゃないか。あの日も抱き抱えていたな)
(え、あれ人間……じゃないよね? 限りなく人間に近い何かだよなあれ……)

 イリオーデ達は目を見開いてエンヴィーを凝視した。何かと勘の鋭いリードに至っては、本来の存在《スケール》ですらないエンヴィーの正体に感づきそうな程であった。
 そんな中、エンヴィーと数日前に会ったばかりの男がボソリと呟いた。
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