だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「とにかくアミレスを命懸けで守るという方向性で話は纏まった事じゃしな……話の腰が折れてしまったが、おい人間。お前が我に聞きたい事とは何じゃ。早う言え、我は今すぐにでもアミレスの元に行きたいぐらいなのじゃ」
(……我の聞きたかった事は会話の流れでほとんど答えを得てしまったからのぅ。後はこの人間の問に答えるだけじゃ)

 それは当初の予定通りの交換条件。こちらの問に答えたならばこちらもお前の問に答えよう、といったもの。
 それにハッとしたディオリストラスは慌てて質問内容を思い出す。一連の話を聞いて、頭が真っ白になりかけていたからである。

「……あー、えっと。殿下がどうやって病を消した……のか、それを聞きたい。元々は殿下がここを抜け出してからの事を聞きたかったんだが、改めて考えりゃアンタは今日殿下と会ったらしいし、ここ数日間の事なんて知らねぇだろうしな」
「お前の言う通り、我は今日アミレスに会ったばかりじゃ。アミレスが我の眠る場に来るまでの事は知らぬ」

 じゃがな、と引っ張る形でナトラは続けた。

「アミレスが我の魔力を浴びて強力になっておった魔物に魔獣にを殲滅し、前人未踏の地下大洞窟──竜の呪いが充満する魔物の巣窟に単身で乗り込んで来た事は確かじゃ。その上で我の元に辿り着き、瀕死の竜を倒すでも恐れるでもなく、あやつは助けた。我を救わんと天にも昇る水の柱を放ち、我が回復する為にと己の魔力が枯渇する寸前まで魔力を寄越しおった。あの時心底思ったのじゃ…………この人間は相当な馬鹿のお人好しなんじゃと」

 死にたくなかったとあやつが泣きだした時は同一人物かと疑ったわい。とナトラは付け加えた。
 その返答に、ディオリストラスは「っ〜〜!」と額に手を当て声にならない声をもらす。
 その声は、アミレスが案の定とんでもない事をしでかしていたから飛び出したものだった。

「これまでの事も踏まえお前達に聞きたいのじゃが……誰もアミレスにああする事を強要した訳ではないのじゃな? ここに、死にたくないと泣く子供に命を懸けさせた輩はおらぬのじゃな?」
「あの子の親ならともかく、ここにはそんな奴いないと思うよ。そんな事をする奴があの子の近くにいる事をボクは許さない」

 その言葉に真っ先に反応したのはシルフだった。そうだそうだと言わんばかりに、他の者達はそれに頷き同意する。……ただ一人、青ざめた顔で俯くマクベスタを除いて。
 シルフの断言するような返答をもってナトラは納得したように目を伏せ、

「……ならばあれは本人の意思じゃと。全く訳が分からぬ……」

 小声で呟いた。そしてアミレスの眠る部屋のドアノブに手を掛けて、ナトラは横目でシルフとエンヴィーを見上げて告げる。

「──アミレスに下された天啓とやらを疑え。ではな、我はもう寝る」

 それだけ残し、ナトラは部屋に入っていった。その後アミレスが穏やかに寝息を立てるすぐ側で体を丸めて眠りにつく。
 部屋の前に残された者達は、ナトラの残した言葉の意味を考えていた。
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