だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
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 美しい銀色の波打つ髪に夜空の如き寒色の瞳を持つ王女。
 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花──まさにそのような存在。同年代の少女と話す姿はどこにでもいる普通の子供のよう。
 キラキラとした顔で剣の師匠の手を引いて走り出した少女は、良くも悪くも氷の血筋(フォーロイト)らしくない王女だった。
 しかし。その印象は一瞬にして覆される。
 白銀の長剣《ロングソード》白夜を構えた瞬間。王女の纏う空気が、その表情が、まるで凍てついたかのように無に染まる。
 それまでの年相応の態度がまるで嘘だったかのように、王女は化け物じみた戦闘能力を発揮していた。
 安定しないヒールと動き辛いドレスでの戦闘にも関わらず、王女はその研ぎ澄まされた剣術とつい先程知ったばかりの魔剣の能力で精霊相手に善戦していた。
 話には聞いていたものの、実際には初めてアミレスの剣の腕を目の当たりにした者達は言葉を失っていた。
 それは何故か──その少女が氷の血筋(フォーロイト)なのであると再認識したからであった。

「言っただろう、アミレスはオレよりもずっと強い。彼女は正真正銘の天才なんだ」
「ああそうだね。アミィは恐らくあの一族の中でも一番の天才だよ……皮肉な事にね」

 放心する大人達に向けてマクベスタが言葉を放つ。それに続くようにシルフが呟く。
 それは大人達の心に深く刺さった。昨晩聞いたばかりの彼女の境遇、努力する理由、それを知る彼等は思い悩む。
 ──あれ程までに強くなった理由が身内に殺されないが為だなんて。と…………。
 今も遠くに見えている、戦うかの少女の横顔は彼等彼女等の知るものとは大違いであり、心理的にどこか遠くに感じさせてしまう事となる。
 しかし。それが更なる決意のきっかけとなった。

(強くなりたい。アミレスを一人で戦わせない為にも、オレは強くならなければ)

 マクベスタが胸元で拳を強く握る。

(王女殿下があれ程にお強いと言うのに、私は……なんという体たらくか)

 イリオーデは剣の柄に手をかけて悔しそうに頬を歪めた。

(……人並みの幸せを望む少女の為に頑張る、か…………)

 リードはとある少年に持ち掛けられた提案を思い返した。

(アミレス様はきっとこれからも沢山危ない事をするだろう。だからその時、わたしが役に立てるように……せめてアミレス様の身代わりになれるぐらいには、強くならないと)

 メイシアは義手にそっと触れつつ身代わりになると決めた。

(大人への甘え方も頼り方も知らねぇガキが頼りたくなるような大人にならねぇとな……)

 そしてディオリストラスが強く決意する。心理的に遠ざかった背中ではあったが、彼等彼女等にとってはその背中までの道も何ら苦ではなかった。
 何故ならそれは──彼等彼女等にとって心より大事に思う相手の未来を守る事だから。
 この後見事精霊より一本取ってみせたアミレスが上機嫌に「おまたせ〜」と戻って来た時は、それぞれが考え事に耽っていた為返事が出来なかったのだ…………。
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