だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

103.氷結の聖女5

♢♢


「少し宜しいですか、姫君」

 案内の途中でシルフの希望から城の大書庫に案内され、皆それぞれ自由に見て回っていた時だった。
 ちなみに師匠は火の精霊だから念の為にと自ら書庫に入らない事にしていた。そしてメイシアもそれに付き添い外で待っている。
 シルフは何やら調べたい事があるらしくマクベスタに本の捜索をさせている。
 私も気になる本を見つけて手に取っていたそんな時、ミカリアが声をかけてきたのだ。手に取っていた本を本棚に戻して彼の方を見る。

「はい、なんですか?」
「僕はもうそろそろ神殿都市に戻らなくてはならなくて……なので最後にもう一度姫君とお話をしておきたかったのです」
「もう戻られるんですか」
「大変名残惜しいのですが、遅くても今夜には戻らなくてはならないのです。僕としては姫君ともっと時間を共にしたかったのですが、神殿都市もかなり立て込んでまして」

 窓から射し込む夕陽が彼の微笑みを照らす。本当に名残惜しそうなその顔を見て、私はつい、彼の手を握っていた。聖人相手にこんなの失礼かもしれないが。
 どうしてこうしたのか分からない。分からないけれど、どうしても彼に言いたい言葉があったのだ。

「姫、君……?」
「またお会い出来る日を、心待ちにしておきますね」

 とても忙しく尊い身分のミカリアとこうして言葉を交わして触れ合える日など早々やって来ない。そもそもアミレスの短い生の中でもう一度あるかどうかも怪しい。
 だからもし叶うのなら。ミカリアの友達になると決めたのだから、彼の友達として死ぬまでにもう一度くらいは会いたい。

「……姫君は、もう一度、僕に会って下さるのですか?」

 ミカリアがボソリと呟く。その顔には驚きと戸惑いがあった。
 そんなミカリアの手を両手でぎゅっと握り締めて、私は笑顔で告げる。

「勿論です。これからも何度だってお会いしたいです。だって私は、ミカリア様の友達ですから」
「──っ!」

 途端に潤むミカリアの瞳。その真っ白な頬には朱が射して、彼の喜びを体現しているようだった。
 今まで家族らしい家族も友達らしい友達もいなかったミカリアは、ずっと独りで何十年も聖人という重責を背負ってきた。
 どれだけ欲していても決して許される事の無いその存在にミカリアはとても憧れていたらしい。だからこそ、初めて愛するという事を覚えたミシェルちゃんに対して非常に執着し依存するようになる。

 一応ミカリアは攻略対象の一人でもあるアンヘルと仲が良いんだけど、アンヘルはミカリアの事を『ただの知り合い』としか称しない。
 更にはミカリアにとって家族同然のラフィリアも厳密には彼の従者みたいな立場であり、家族では無いと主張する。つまりミカリアはずっと頑張って来たのに何もいい事がなかったようなものなのだ。
 それなら少しぐらい褒美があってもいいじゃないか。少しぐらい彼の欲しいものをあげてもいいじゃないか。
 どうせこの先ミシェルちゃんと出会い彼女に執着するようになるんだ、ほんの少し先に私が彼にちょっとしたご褒美をあげても問題ないだろう。
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