だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

104.オレは彼女と出会った。

 思い返せば全部とても些細な事だった。小さなきっかけを積み重ねて、徐々にその花は芽吹こうとしていたんだ。
 帝国の騎士達に弱小国の王子でしかないオレは相手にされず、一人で素振りをしていた時。

『一緒に剣の特訓をしませんか?』

 そう、提案してきた風変わりな少女がいた。銀色の髪に寒色の瞳を持つオレよりもずっと小さいその少女が、現フォーロイト帝国唯一の王女アミレス・ヘル・フォーロイト殿下である事は一目で分かった。
 淑女らしくドレスを身に纏うのではなく、男のようにシャツとズボンを身に纏い、扇や宝石ではなく剣を手に持つ少女。
 彼女は一緒に強くなろうと、オレに手を差し伸べてくれたのだ──。

 ある夏の日の事。アミレスとの特訓を始めて二ヶ月程が経った頃だった。この頃にはオレも二つ歳下の彼女と打ち解ける事も出来て、彼女の魔法と剣の師匠たるシルフと師匠とも少しは仲良くなれたと思う(シルフには妙に警戒されているが)。
 お二方ともなんとあの精霊と呼ばれる存在であり、それを初めて聞いた時はアミレスが精霊士なのかと目がひっくり返る思いだった。
 だが実際は違い、何と彼等二人はただの好意……アミレスを気に入ってるからという理由だけで召喚された訳でもなくこちらの世界に降り立ち、アミレスに剣と魔法を教えているらしい。
 気まぐれな精霊にそこまでさせるとは、アミレスにはまだまだオレには分からない魅力や力があるのだろう。そう、当時は納得していた。
 そしてこの夏の日に、オレもその魅力を理解する事となったのだ。

「…………小国からの親善使節ごときに、何か御用でしょうか」

 ほぼ毎日天気が悪い日以外はアミレスと共に特訓をしていたので、この日もいつも通り東宮の裏手にある特訓場に向かうつもりだった。
 ただいつも使っている道が馬の手入れだとかで塞がっていて、別の道を行く必要があった。その為に少し騎士団の訓練場近くを通った所……物の見事に絡まれた。
 複数人の騎士に囲まれ、オレは逃げ出せなくなっていた。約束の時間まで後少しなのに、こんな所で道草を食う訳には…………。
 そう考えて事を穏便に済まそうと下出に出たのだが、これは逆効果だったらしい。

「いやぁ、我々も今丁度手が空いておりまして。以前王子が我々と共に訓練がしたいと! そう仰っていた事を思い出しまして、ねぇ?」
「ああそうだ! 王子もきっとお暇でしょう、良ければ我々がお付き合いして差しあげましょうか?」
「遠慮なさらず、例え王子のお遊びの剣であろうと我々は全力でお相手しますから。そうだよなお前達!」
「勿論だとも!」
「だから安心して下さい王子。我々と、共に…………訓練、しましょうか?」

 底意地の悪い笑みを浮かべる大人達。それはまるで、新しい遊び道具(おもちゃ)を見つけたかのようであった。
 ……いや、事実そうなのだろう。オレは彼等大人を相手に何も出来ず(・・・・・)、結果袋叩きにあった。
 木剣とはいえ何度も殴られたら痛いし、最早剣も関係なくただただ嬲られた。体中を傷だらけにされ、服も汚された。
 だけどオレは抵抗しなかった。オレには抵抗する権利が無い。例え彼等が子供相手に複数人で憂さ晴らしをするような屑であろうと、フォーロイト帝国の人間である事は変わりない。
 フォーロイト帝国のご機嫌取りの為に来ているオレが、フォーロイト帝国の人間に刃向かう事など許されないのだ。
 だから何もしない。正直な所、この男達は全員本当に騎士かと疑うぐらい弱い。それに技術も拙い。
 うちの騎士団長や師匠と比べると雲泥の差がある。その為、彼等の攻撃は全部見えたし、避ける事も反撃も可能ではあった。
 だけど許されない。こんな屑相手でもオレは下手に出なくてはならない。反抗してはならない。従順でなくてはならない。それが弱小国《オセロマイト》が生き残る唯一の道だから。
 オレの感情も、尊厳も関係ないのだ。
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