だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「じゃあ、どうしたらいいんだ? オレは、こんなオレが赦せない。最低で醜悪なオレが赦せないんだ」

 嬉しくて嬉しくて仕方なかった。初めてアミレスに会った時よりもずっと嬉しくて、胸が締め付けられるようで、うるさいぐらい鼓動していた。
 相手を危険に晒して泣かせてしまったのに。その相手への想いでオレの心はかつてない程に高鳴っていた。
 そんなオレの心が赦せない。赦せないのにも関わらず、これを受け入れるしかないなんて。

「赦せないからこそ受け入れるしかないんだろ? それを罪だと思うのなら全部受け入れて償うべきだよ。罪人が罪を放棄して逃げ出す事は最も許されざる罪だ。だからさっさとその罪だと認識する心を受け入れて命の限り償えよ」

 罪を放棄して逃げ出す事が、最も許されざる罪──確かにそうだ、その通りだ。

「と、偉そうに講釈を垂れたものの。ぼくはお前の事情とか感情とか知らないし。ただそのままセンチメンタル極められるとおねぇちゃんの貴重な時間が無駄になるってゆーか? 身内に甘いおねぇちゃんの事だからメンドーな男のメンドーなセンチメンタルにもとことん付き合っちゃいそうでさぁ、それが個人的に気に食わないから? こうして柄にも無く背中押してやったりしてるんだよねぇ」

 だからさっさと吹っ切れてくんない? とシュヴァルツは作り物のように笑う。
 柄にも無く、か……確かに、シュヴァルツは自分にとって利のある事しかしなさそうだ。
 別にずるいとかそう言う事では無い。ただ、必要な事だけに力を注げる効率的な生き方が出来る人なんだなと、少し羨ましくなる。
 オレはどう足掻いても、そんな賢い生き方は出来ないから。

「……この心を受け入れたとして、オレは、これから先もアミレスの良き友人でいられるのだろうか。もしこの最悪な欲望なんかに負けた日には、もう…………」
「重く捉えすぎでしょ……今そんなもしもやたらればの話しても意味無いじゃん。それにおねぇちゃんの良き友人でいられるかどうかもお前の努力次第でしょ? 何で全部決めつけようとするんだよ」

 ケッ、と苛立ちを露わにするシュヴァルツ。だがオレは、オレの努力次第……と彼の言葉を復唱するだけだった。

「だってそうじゃん。お前が欲望に負けて何かやらかしたとして、それはお前の理性が雑魚だったってだけの話。良き友人でいられるかどうかも同じだろ。お前が良き友人であろうと努力すればそのままでいられるし、努力を怠ればマクベスタが思うような最低な人間に成り下がる。つまりぜーんぶお前の努力次第って事」

 シュヴァルツの言葉はやけに簡単に、胸の奥までストンと落ちて来た。
 オレの努力次第で、オレはこの先もアミレスの良き友人でいられる。この醜悪な欲望を抑え込む事も出来る……どうしてその事に気づけなかったのか。
 この心を受け入れてしまえば明かさなければならないと勝手に思い込んでいた。彼女に打ち明けねばならないと。
 そんな義務も必要も何処にも無い。例えこれを受け入れてしまっても、オレが永遠に、死ぬまで心の奥底で封じていればいいんだ。
 そうすればきっと、彼女に汚い欲をぶつける事も愚かな想いをぶつける事も無い。
 そうだ、これが一番いい。赦されざる事をした最低最悪なオレに相応しい生き方だ。
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