だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

108.ある聖人の意想

 胸がザワザワとしていたその時、コンコンコンと部屋の扉が叩かれる。この部屋を知る者は僕を含めたったの三人だけ。僕とラフィリア、そして信託の大司教ジャヌアだ。
 ラフィリアはわざわざノックなどしない。つまりこれはジャヌアだろう。「入っていいよ」と扉に向け告げると、頭部に純白の布を被った長身の人が恭しく礼をしながら入室する。

「失礼致します、聖人様。至急お伝えしたい事が」
「わざわざ僕に報告するなんてよっぽどの事があったのかい」
「……我が身の至らなさ故、聖人様のお手を煩わせる事となり忸怩たる思いでございます」
「ジャヌアがそこまで言うって事は……愛し子関係か」
「……はい、その通りでございます」

 老人のようにもうら若き女性のようにも聞こえる不思議な声でもってジャヌアは申し訳無さそうに語る。
 ラフィリアに続きジャヌアの顔も見えないのだけれど、何故か二人共とても表情が分かりやすい。
 愛し子と言うのは先日国教会で保護したばかりの神々の加護(セフィロス)と天の加護属性《ギフト》を持つ少女の事。
 神々の愛し子である尊き存在……なのだが、神殿都市に来てからというものの身勝手な言動が多く歴戦の大司教達と言えども手を焼いているのだ。
 そんな愛し子の存在もあって、僕達はオセロマイト王国に向かうのが遅れてしまったのだ。
 愛し子は確かに尊重すべき存在なのだけれど……どうにもそれが出来ないでいるのが現状である。
 いっその事、神々の加護(セフィロス)を持つ人が姫君であったなら。そうすれば合法的に囲う事も出来たのに。

「はぁ…………で、愛し子はどんな風に暴れているんだ」
「周囲の者を尊重しない横柄な振る舞いで不遜にも大声で聖人様の御名を口にしており、それを諌めた司祭達に天の加護属性《ギフト》を用いて恣意的に攻撃を繰り返しております」

 神々から賜りし力をそのような事に、と僕は額に手を当てていた。何とも頭の痛い話である。
 彼女がこれ以上馬鹿な行いをしないよう窘める必要があるのだが、いかんせん相手はまだ幼い子供であり神々の愛し子だ。僕達とて強くは出られないのである。
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