だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……仕方ないな、とりあえず僕も愛し子に会うよ。会って言わなければならない事もあるし」
「聖人様自ら、ですか……?!」

 僕が重たい腰を上げるとジャヌアはたいそう驚いた声をあげた。
 うん、と笑みを作り僕は続ける。

「どうせ大司教達も愛し子の世話で集まってるんだろう、君達に名誉挽回の機会──新しい任務を与える事にしたから、それに関してもそこで言うつもりさ」
「しかし愛し子が聖人様に失礼な態度を取る可能性が……」
「その時はきちんと怒るでしょう、君達が。ほら行くよジャヌア」
「はっ、はい!」

 聖人らしくいつもの祭服に身を包む。新しい任務……精神干渉系の魔眼が効かない人間が他にいないのかの捜査は、大司教達何名かに任せよう。
 そして僕は愛し子の部屋として用意した、大聖堂から少し離れた一軒家に向かった。
 最初は大聖堂の近くに部屋を用意していたのだけれど、愛し子が神殿都市に来たその日に大司教以下は立ち入り禁止時間の大聖堂に侵入し、『何でないの! この辺にあるはずなのに!!』と騒ぎながらその内部を捜し物だとかで荒らした為、大聖堂から離れた場所で軟禁されているのだ。
 本来ならばそのような行為をした時点で相当な重罪なのだが、彼女が愛し子であると言う点のみでその時は不問とした。
 だが次は無い。我々としても愛し子を罰するような事はしたくない……だからこそ大聖堂から離れた所で大司教や司祭達の監視の元、彼女が落ち着くまで軟禁しているのだ。

「こんな夜中に暴れるなんてそもそもとして常識が無いんじゃあないかな」
「……愛し子は故郷の村では男衆を中心にまさに姫、といった扱いを受けていたそうで…」
「何処までも我儘を許される環境で生きて来たのか。本当に厄介だなぁ」

 薄暗い街中をジャヌアと共に早足で歩いてゆく。
 本当に厄介な子供だよ全く……神々の加護(セフィロス)を持つ愛し子でなければ確実にこんな貧乏くじは引かなかったね。
 愛し子に姫君の一割でも優しさや真面目さがあれば良かったのに。というか姫君が愛し子だったら良かったのに。
 なんてたらればの想像をしては、そう上手くはいかない現実にガッカリしてしまう。
 そうやって気乗りしないまま愛し子の家に到着すると、その家の前に二人の大司教がいた。

「ノムリス、ライラジュタ。君達がここにいたのか」
「っ聖人様?!」
「聖人様がどうしてこのような場に……!!?」

 不眠のノムリスと時厳のライラジュタに声をかけると、二人は困惑した面持ちで慌てて膝をついた。外だし今はそういうのいいよ、と告げると二人は恐る恐る立ち上がった。
 そして現状の報告を求めると、

「はっ! 愛し子は依然として妄言を吐きつつ世話係の司祭達に手を上げる始末です。何より……あのクソ軽い口で聖人様の御名をベラベラと……ッ!!」
「ライラジュタ卿、素が出てますよ」
「あ。いや、その……つまりそういう事です聖人様!」

 ライラジュタが眉間と口の端に深い皺を作り、憤りを隠さず報告した。それをノムリスが軽く指摘し、ライラジュタは目元の眼鏡をクイクイっと指で押し上げながら慌てて笑顔を作った。
 ライラジュタは若くして大司教になった優秀な男で、僕の事をとても尊敬してくれているらしい。そしてノムリスもライラジュタと同様に若くして大司教になった勤勉な男だ。常に眠たそうな顔をしているけど。
 二人は同郷であり、そして僕が紛争地域で保護しここに連れて来た子供達だ。……確か二人共もう三十の大台に乗ったと言っていたな、それでも大司教達の中では若い方だけれど。
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