だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「──僕、祖国に戻る事に決めたよ。彼女の未来を守る為に強くならないといけないからね」

 僕の言葉にシュヴァルツ君は目を丸くした。しかしそれも束の間、彼は満足げに笑みを浮かべた。

「そう。いい返事が聞けて嬉しいよ。今からもう戻る感じなの?」
「そのつもりだよ。一度限りの魔導具を使って戻ろうかと」
「ふーん、まぁ、精々頑張ってね」

 手紙は任されたよ。と言って、シュヴァルツ君は僕の手紙を懐に入れた。
 話はここで終わったかに思えたが、実の所まだ彼に言いたい事があるのだ。なので、祖国に帰る前に最後にもう一つ……と僕は切り出す。

「シュヴァルツ君。僕がいない間──聖人から逃げ回ったりせず、あの子の事を守ってね」

 僕の言葉に、ピタリ、と彼の動きが止まる。
 ゆっくりと上げられた彼の顔は、これまた随分と悪どい笑顔に染まっていて。果てしない闇を宿しているかのような、妖しく輝く金色の双眸が僕を捉える。

「──バレちゃったか」

 しかし。シュヴァルツ君は王女殿下の前でするような無邪気な笑顔でそう言い放った。多重人格なんじゃないかと思うぐらいの表情の変わりようである。

「いいよぅ。おねぇちゃんの事はぼくも可能な限り守るから」
「なら安心だ。それじゃあ僕はそろそろ行くね」

 少し不安が残るものの、シュヴァルツ君の言質も取れた事だし、僕は祖国に戻る準備を始めた。……準備と言っても、ずっと首にかけていたネックレスを手に持っただけだ。
 そしてそのネックレスについた赤い魔石を──握り潰す。その瞬間、僕の足元に瞬間転移の魔法陣が出現した。
 これは僕が旅に出る時に念の為にと持ってきておいた魔導具。一度限りの移動手段……特定の場所にのみ繋がる瞬間転移の魔法陣が刻まれた魔石だ。
 この魔力石を壊すだけで発動する優れ物。持って来たはいいけど使う気にもならなくて二年近く持て余していたのだが、まさかちゃんと役に立つ日が来るなんてな。
 瞬間転移の際に発生する白い光の向こうから、シュヴァルツ君がひらひらと手を振ってくる。それに手を振り返した時には、僕はもう転移を終え、無事に目的地に着いていた。
 そこは連邦国家ジスガランドの中央都市カセドラル。教皇オルゴシウス=ラソル=リューテーシー聖下が教え導くリンデア教の聖地であり、教座大聖堂と呼ばれる城のごとき巨大な聖堂のある場所。
 その教座大聖堂のすぐ近くに僕は転移したようだ。が、しかし。二年ぶりの実家は中々穏やかではなかった。
 慌ただしく行き交う信徒達。司祭も司教も神父も皆が忙しなく走り回っている。まるで大事件が起きたかのような騒ぎに僕は大きくため息を一つ。
 まさか帰って来て早々厄介事に巻き込まれるなんて。幸先が悪いなぁ。

「……まぁ、それでもやるしか僕に道は無いけどね」

 意を決し、三つ編みに指を絡めそれを解く。解かれた髪を後ろに流そうと頭を軽く左右に振り、僕は気合いを入れる為にパンっと自分の両頬を叩いた。
 そして一度深呼吸をしてから、ゆっくりと人々の集まる方へと歩を進めた。
< 484 / 1,370 >

この作品をシェア

pagetop