だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

111.帰りましょうか。3

 夕食の時間になるとシュヴァルツが私を呼びに来た。そこそこ泣き腫らしていた私の顔を見て、シュヴァルツが驚いていた。
 しかしシュヴァルツは涙の訳も聞かず、「誤魔化してあげようか?」と言って何かの魔法を私にかけてくれた。その後、水で鏡を作り確かめてみると……確かに泣き跡は一切残っておらず、至って普通の、いつもの私がそこには映っていた。
 一体シュヴァルツは何をしたのだろうか……と目元の辺りを何度か摩っていると、

「あ、そうだぁ。これリードからおねぇちゃんにって」

 彼は一通の手紙を手渡して来た。リードさんから……? と首を傾げつつそれを受け取り、開いてみると。そこには短く、たった二行で別れが書かれていた。

「えっ……これ、どういう事……?!」
「リードね、やる事があるからってもう帰っちゃったんだ。だからそれはお別れとまた会おうねーっていう手紙だと思うよぅ」
「帰っ……た……今? 空中《ここ》で!?」
「うん。なんか実家に帰る方法があったらしいよぉ、リードには」

 呆然とする私に向けて、シュヴァルツはにこやかに笑いかけた。その顔はまるで子の成長を見守る親のような、そんな穏やかな笑顔だった。
 ……でも、どこか底知れない狂気を孕んでいるかのようなその瞳が怖くて、恐ろしくて……私は無意識のうちに目を逸らしていた。
 しかしシュヴァルツが私の手を取り、「ほら夕食に遅れちゃうよおねぇちゃん!」と言って歩き出したのだ。突然引っ張られた事により躓いて転びそうになりながらも歩いて行く。
 食堂に到着すると皆はもう既に席に着いていて、中でもディオとシャルが突然一人で帰ったリードさんへの文句をぶつぶつと言っていた。
 そして船長さん特製の夕食が私達には振る舞われる。船長さんってメイシアの護衛兼船長兼魔導師なのに料理まで出来るのか…………とそのハイスペックさに感心しながら料理を味わい舌鼓を鳴らす。
 やっぱり美味しいものを食べると幸せになれるわぁ。さっきまで心と体の乖離で泣いてたのが嘘のように満ち足りた気分だ。
 そんな食事を終えた私は、もう休むと皆に伝え、一人で客室に戻った。ナトラもシルフも師匠もやんわりと部屋から追い出して、本当に一人きりになる。
 何故そこまでしたのか。それは今後起きる出来事や行う事を整理したかったからだ。

「よし、紙とペンの準備完了っと」

 椅子に座り、目の前に紙とペンを用意する。情報が漏れないようになっているとはいえ、念には念をと私は久方振りに日本語を書いた。
 もうずっと大陸の共通語を見て聞いて書いていたから、正直言ってもう日本語なんて忘れているかも……と思ったのだけど。
 意外と体が覚えているものね。と笑いを零しつつ、見出しとして『今後の大まかな流れ』と書き、その下に思い出せる限りの事件等を書き出してゆく。
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