だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 シルフはそう言ってため息をこぼした。
 実は先日、見知らぬ騎士の男から花を贈られたのだ。偶然にもハイラさんが毒のある草花の事も教えてくれていたので、私は差し出されたそれが、茎に猛毒がある花だとすぐさま気づいた。
 しかしせっかくだから……と受け取り、それをいつも特訓をしている場所の木陰に植えた。いつ枯れるかなーと二人で予想しつつ、毎日ちゃんとお水をあげている。
 それを植える時に分かった事だが、どうやら私には毒が効かないらしい。
 そんな設定がアミレスにあったのか……と驚いたのは記憶に新しい。
 うっかり毒のある茎の部分に素手で触れた時はシルフの慌てっぷりが尋常ではなかった。だが全くなんとも無いので、そこで初めて毒が効かないと分かったのだ。
 もしかしたら今までも毒は盛られていたのかもしれない。ただ私が全く気づかなかっただけで。そうだとしたら犯人に申し訳ないな……仕込んだネタが回収されないのって多分辛いだろうから……。

「嫌われ者の王女だからさ、てっきりもっと命を狙われるって思ってたのよね……」

 手紙を整理しながら世間話に花を咲かせる。
 どれだけ命を狙われても、私は何となく死なない確信があった。何故ならここは乙女ゲームの世界で、今はまだ本編シナリオが始まっていない所謂前段階。本編シナリオ的にもそこそこ重要な役どころのアミレスがそう易々と死ぬ筈が無い。
 私はこの世界の強制力的な何かを信じているのだ。

「そんな期待を抱くのは君ぐらいだと思うよ……」

 シルフが呆れたように言うので、私はそれに口を尖らせて突っかかる。

「だって案外皆さん消極的なんだもーん。刺客が来れば実戦で経験を積めると思ってたのに」

 実戦での経験があるのと無いのとでは、剣士の動きや思考にかなりの差が出るのだとか。私も剣を握る者としては少しぐらい実戦を経験しておきたいと常々思っている。
 それを初めてシルフの前で言うと、シルフが怒ったように強い口調で、

「アミィ、君は女の子なんだから冗談でもそういう事は言わないで。君は確かに強いけれど、だからって大人数相手だと勝てるとも限らない……君にもし万が一の事があればボクは本当に悲しいし、とても悔しい。だから絶対に無茶はしないで。危険に飛び込むような真似もしないで」

 と窘めてきた。流石にそれには私も色々と考えさせられ、肩をすくめながら「……ごめんなさい」と謝罪した。
 しかしシルフの口は止まらなかった。

「大体、魔法や剣を学ぶのだってあの布の人越しになんとか皇帝から許可を取っての事なんだよ? もしそんな危ない目に遭ったらもう学んじゃ駄目って言われるかもしれないよ、君はそれでもいいの?」
「絶対に嫌! まだまだ沢山学びたい事があるのに!」

 私は食い気味で答えた。まだまだ私はもっと強くなれる、もっと努力出来るんだ。……それなのに、こんな所で躓く訳にはいかない。
 猫シルフの瞳をじっと見つめる。すると猫がふにゃりと笑ったような気がした。

「……うん、それでいいんだよ。君は少々無鉄砲で怖いもの知らずな節がある。だから、慎重過ぎるぐらいが丁度いいんだ。失敗や最悪を恐れて、考え過ぎるぐらいがいい。その方がきっと君は、危険な目に遭わないで済むから」

 シルフの言葉が、胸の中にスっと入ってきたような気がした。ここに来て私は、シルフに諭されているのだと気づいた。
 シルフはきっと、私以上に私に詳しい。私が知らず知らずのうちに慢心していた事に気づかせてくれた。
 転生者なのでこの先何が起こるのか何となく把握していると、私は無意識の内に慢心していたのだ。加えて、ある一定の地点までは死ぬ事も無いだろうと高を括っていた。
 それが命取りになる可能性だって全然あったのに。その過ちに気づいた私は言葉を失っていた。ただ呆然としながら自身の鼓動を聞いていた。
 呆然とする意識の中で薄らと考える……もしもの時の事を。慢心故に死んでしまうかもしれない、可能性の事を。
< 49 / 1,395 >

この作品をシェア

pagetop