だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

112.終幕 救国の王女

 深夜。夜が大きく口を開け朝が身を隠す頃。
 フォーロイト帝国皇帝エリドル・ヘル・フォーロイトは己の執務室にて機嫌を悪くしていた。いっそ恐怖すら覚える美貌……その額には深い川のごとき皺が作られ、完全に据わっている絶対零度の瞳に睨まれればたちまち凍死してしまいそうな程。
 エリドルは報告書を片手でぐしゃり、と握り潰して目前の男をキツく睨んだ。

「一体どう言った事情があるのか話すがよい、私自らお前の弁明を聞いてやる」

 ほんの僅かでも動けば殺されてしまいそうな空気の中、エリドルの睨みを真正面より受け止める男は、その圧倒的な威圧に屈する事無くおもむろに口を開いた。

「…………弁明はございません。王女殿下に長期の外出許可を出した事は間違いなく私の判断です」

 何処かエリドルと似た声音で、男──ケイリオルはその布の下からエリドルを真っ直ぐ視て返答する。
 それに怒りを覚えたのか、エリドルは更に目くじらを立てて追及する。

「アレが他国の問題に口を挟む事を何故黙認した? アレの身勝手な行動が我が帝国の威信に関わる事はお前とて良く知る事だろう」
「勿論でございます。しかし、その上で私は彼女を送り出しました。彼女の行動が、必ずや陛下にとって都合のいい結果になると確信したからです」

 大の大人でも震えながら逃げ出したくなるような凍える空間にて、ケイリオルは一切言葉を詰まらせる事無く堂々と言い放つ。
 彼の発言にエリドルの眉がピクリと反応する。エリドルは訝しげな瞳でケイリオルを睨んだ。

(私にとって都合のいい結果だと? ハッ、笑わせる。アレが死んだのならまだしも、オセロマイトを救い帰って来おった。何より──)

 エリドルが此度の件で最も厄介だと感じた事を心の内に抱いたその時。
 ケイリオルが同時に口を開いた。

(──シャンパージュが絡んでおる)
「シャンパージュ家が絡む問題の為、陛下も気を揉まれているのでしょう。しかし、それには及ばないのです」

 ほぼ同時。寸分違わずエリドルの思考……シャンパージュ家の話を言い当てる。それに驚く事無く、スっ……とケイリオルを冷めた目で見据えるエリドル。
 そう、エリドルが受けた報告は確かにオセロマイト王国にて大流行した草死病《そうしびょう》とアミレスの事であったが、その中でも特にエリドルの琴線に触れた事はシャンパージュ伯爵家の介入だった。
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