だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(マジか、マジか……!! 今まで考えて来なかった訳じゃねぇけど、ガチで他にも転生者がいるとは! しかもアミレスだって? おいおいおい、めちゃくちゃ面白くなって来たじゃねぇか!)

 ゾクゾクゾクッ、と突き上げるような興奮がカイルを襲う。ずっと前世の事を誰にも話せず孤独を感じていたのはカイルとて同じであった。
 それでも自分なりに目標を立ててこれまで生きて来た彼にとって、アミレスの存在はまさに転機。最高の刺激となる。

「……こうしちゃいられねぇな」
「カイル様? 急にどうしたのですか……?」

 今までにないくらい楽しさを隠しきれていないカイルはおもむろに立ち上がり、引き出しの中から便箋と封筒を取り出す。その背中に向けてコーラルが不安げな声をかけるも、カイルはそれをスルーした。
 暫くして。手紙を書き終えたカイルはニヤニヤといたずらっ子のような笑みのままそれを封筒に入れてゆく。その際に何らかの魔法陣が描かれた小さな正方形の紙も同封した。
 そしてカイルは、封蝋の施された手紙を片手にサベイランスちゃんを起動する。

「か、カイル様? 本当に今度は何をされるおつもりで……」
「──アミレス・ヘル・フォーロイトに、手紙出してみようと思って。普通に出せば絶対検閲されるし、俺はまだ暫くは軟禁されたままだろうからな。だからサベイランスちゃんを活用しようと思ったんだ」

 カイルの突拍子もない行動にあんぐりとするコーラルに、当のカイルはサラリと話す。
 カイルはそもそもオセロマイトを救う為に、自由に行動出来るようにと王位継承権を放棄したにも関わらず、何故か企みがあると勘違いされて軟禁されているのである。
 その為、そんなカイルが手紙を出したとあれば協力者との繋がりを疑われ、確実に検閲が入る。カイルはそれを良しとしなかった。
 故のサベイランスちゃんの出番である。決して、カイルがこれを使いたいからとかではない。断じて違う。

「そもそも何故帝国の王女に手紙を?」
「え? そりゃあ……普通に仲良くなりてぇっつうか、とにかく話してみたくて」
(カイル様にもついに気になる女性が……!!?)
(相手がどういうタイプの転生者か知っておきてぇしな)

 カイルはコーラルの疑問に答えつつ慣れた手つきでサベイランスちゃんを操作していく。
 上機嫌に鼻歌を歌いながら作業するカイルを見てコーラルは盛大な勘違いをした。しかしそれにカイルは気づかず、これから暫くの間生暖かい目を向けられる事になる。
 カイルは座標をアミレスの住まい東宮に指定し、フォーロイト帝国の王城に展開された結界を素通りする術式を組み立て、転送術式を次々に稼働させてゆき、やがて例の手紙をある場所目掛けて転送させた。
 結果は成功。その手紙は無事、フォーロイト帝国が皇宮……その東宮の廊下にポトリと落ちる事となる。その手紙はある侍女の手によって拾われ、アミレスの元に無事に行き着くだろう。
 その手紙の始まりはこうだ。

『この世界は、狂おしいほどに不平等な愛で満ちている──。』

 これはアミレスとカイルその両方が知る言葉。『Unbalance(アンバランス)Desire(ディザイア)』のキャッチコピー……それを原文そのまま、カイルは日本語で書いた。
 これで確実にカイルも転生者である事がアミレスに伝わる。カイルはそれを狙っていたのだ。
 もし万が一アミレスが転生者でないにしても……どうせ日本語だから読めやしない。最高の暗号だと分かった上でカイルは日本語を使ったのだ。

(──ああ、楽しみだな。せっかくの転生者同士なんだ、仲良くなれたらいいな)

 カイルは七夕に星空に願う子供のように、明るい表情で窓の外の空を見上げていた。
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