だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 しかしこの時は私の出番では無かった。王女殿下がとても砕けた口調でメアリーとシアンにも分かりやすいように語りかける。…………ただ、その内容に関しては色々と、私の脳内にてきちんと保持させていただく事にした。
 どこの貴族共が王女殿下を侮辱しているのか……追追調べて制裁を加えなければと。皇帝陛下だけでなく皇太子殿下まで王女殿下を嫌うだなんて、そんな馬鹿なと。

 私がどれ程馬鹿な信じられないと思っていても、残酷な事にそれが事実なのだ。王女殿下は確かに御二方に疎まれ、更にはいつ殺されるやも分からない状況で生きてきたらしい。
 何故、そんな王女殿下のお傍に私はいなかったのか。この時……私は強く、そう悔やんだ。

 そして私は、無礼にも王女殿下に粗相を働いたメアリーとシアンに謝罪を促した。すると、慈悲深き王女殿下は二人の事をお許しになったのだ。ああ、なんとお優しき御方なのか。
 加えて──会話を、してしまった。王女殿下と、会話を。
 早く王女殿下と言葉を交わしたいと思っていた十年前の記憶が、まるで昨日のように思い出された。それが十年越し、十二歳にまでご成長なされた王女殿下と実現するだなんて。

 私は一体、前世でどれだけの徳を積んだのだろうか。
 穢れた心が浄化されるような眩い微笑みを、王女殿下は私に向けて来た。その瞬間。私は感極まり、なりふり構わずその場で跪いていた。
 順序というものがあると、そう、頭では理解していたのだが……どうにも心と体が勝手に先走ってしまったのだ。

『……メアリーとシアンを許してくださった事、心より感謝致します。私はイリオーデ、慈悲深き王女殿下に忠誠を誓いたく申し上げます』

 当時一歳程であった王女殿下は私の事など覚えていないだろう。だからこうして今一度改めて誓いを捧げたのだ。
 メアリーとシアンをダシにしたのは事実だ。突拍子の無い忠誠では流石に王女殿下を困らせてしまう事になる、という自覚が私にもあったのだ。
 だがしかし。この時は王女殿下に忠誠を受け取っていただけず、何なら誤解されてしまったようでもあった。

 しかしまぁ……王女殿下の私兵になれたのだから良しとしよう。恐らく私はあの中の誰よりもその事に喜んでいたと思う。表には出さなかったが、我ながら柄にもなくかなりはしゃいでいた。
 その浮かれもあったのか、はたまた私が弱すぎたのか……王女殿下の御友人というマクベスタ王子に大敗を喫した。
 彼は強い。それは立ち姿や鞘を構えた時には既に分かっていた事だったが…………まさかあれ程とは。

 これでも帝国の剣たる父から剣を教わり、二十年来欠かさず剣を手に鍛錬を積んで来たのだが……歳下でまだ発展途上の少年相手に手も足も出ないなんて。
 王女殿下の騎士として恥ずかしい限りだな……と我が身の至らなさに下唇を噛んでいた時。
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