だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「ちゃあんと生かしておかないと、誰の差し金か分かんなくなっちゃうもんねー」

 シュヴァルツが底知れぬ狂気を孕んだ無邪気な声でそう話すとほぼ同時。シュヴァルツの手に握られていた箒は呆然とする男の顎に命中。強く突き上げられたそれに男は脳震盪を起こしその場にて倒れた。

「そうさな。しかし、ここはこの国で対外的に最も安全な場と聞いていたのじゃが……全然ゴミが紛れ込んでおるではないか」
「うん。だからこそゴミを紛れ込ませた誰かがいる筈なんだよねぇ、それをぼく達で突き止めようじゃないか」

 ナトラは軽い裏拳で近くにいた男の腹を殴り、壁に叩きつけた。シュヴァルツもまた、箒が折れてもおかしくない勢いと強さで男の頭を叩いて気絶させた。
 残る侵入者は六人。ここに来てようやく、侵入者は己の置かれた状況を理解する事が叶った。

「な、なんなんだよこのガキ共……ッ?!」
「ガキの癖に生意気な……!!」
「話が違うじゃねえかッ! 野蛮王女を殺るって話だったろ!!」
「こんなガキ共がいるなんて聞いてねぇっ!!」
「おいどうすんだよこれ!!?」
「お……おれは逃げるからな?!」

 目の前で無惨にもあっさりやられた仲間を見捨て、侵入者達は逃げ腰で後ずさる。その顔には醜い脂汗が溢れんばかりに滲んでいた。
 そんな男達の目の前に瞬く間にナトラが移動し、鋭い黄金の瞳で男達を見上げた。

「逃がす訳がなかろう。お前達はアミレスに危害を加えようとした、それは我々にとって最も許し難い重罪じゃ」

 ナトラの拳が男の腹目掛けて放たれる。それは人の目には見えぬ刹那の所業。愚かな人間達がそれを認識した時、それは衝撃で内蔵をいくつも潰された男が口から血を垂れ流しつつ、壁に倒れ込む姿を目にした時だろう。
 ナトラはその男の口に適当に生み出した葉っぱを詰め込み、血で皇宮が汚れぬよう気を使った。
 可愛らしい幼女の人間離れした──化け物じみたその力に、男達は恐怖する。ガチガチと何度も歯を鳴らし、全身を震えさせる。
 その中の一人があまりの恐怖に失禁しそうになったのだが、それに気づいたシュヴァルツが「まずッ」と言いながら急いで窓を開けて叫ぶ。

「ナトラ、今すぐこのゴミを外にぶっ飛ばして! 生死度外視で!!」
「任された!」

 シュヴァルツの指示通り、ナトラが男の鳩尾の辺りを殴った。
 するとおよそ人体から鳴ってはならない音を発しながら、男は窓の外へとぶっ飛ばされ、その勢いのまま余裕で王城の敷地外へとその身を飛ばす。きっと、街のどこかに落ちて死ぬ事だろう。
 しかしそのような事、シュヴァルツとナトラの頭には全くない。無事にゴミを外に飛ばせたと、シュヴァルツはホッと肩を撫で下ろしていた。
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