だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

121,5.ある殺人鬼の切望

「心臓を刺した相手が逃げ出したぁ? 何ふざけた事を言ってるんだ貴様は!!」
「申し訳、ございません……ですがこれが事実で」
「黙れ! 命令もまともにこなせない屑が!!」
「ッ!」

 醜い男の怒号と人の肌が叩かれた音が、夜闇に暮れる室内に響く。
 男に頬を叩かれたその者は、赤く腫れた頬に手を当てて力なく項垂れる。その際に目深に被っていたローブがズレ落ち、その顔が外界に晒される。
 色の無い黒髪に、光の無い灰色の瞳。何度も何度も暴力を振るわれているのか青痣だらけの顔。しかしその顔は一般的に見ても整っている。
 そしてその首元には趣味の悪い不気味な首輪。それは、他者を強制的に隷従させる違法の産物。
 この者は隷従の首輪なる物でもって、この男に支配されていた。

「全く……赤しか見えない貴様の為にわざわざ赤髪の人間を探し出してやってると言うのに! シャンパージュ伯爵夫人ぐらいさっさと殺さんか! 失敗したなら失敗したと言え、下手な言い訳など我輩には通じんぞ」

 偉そうな口調の男は唾を飛ばし、懐から鞭を取り出した。それは男が躾をする時に用いる鞭。その鞭を見た黒髪の青年はビクッ、と恐怖から無意識に体が反応する。
 もう何度されたかも分からない躾──と称された男の憂さ晴らし。その痛みや恐怖を思い出し、青年は顔を青ざめさせ、俯いた。
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