だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「…………そうだな。時にハイラ、八年分の王女殿下の話をする気はないだろうか」
「おや、奇遇ですねイリオーデ卿。姫様がお生まれになられた時より乳幼児として過ごされた数年の話、それとオセロマイトに行かれていた際の話……是非私も聞きたいですわ」

 他担拒否過激派の二人は同担と上手くやるつもりのようだ。お互いに知り得ないものを相手に共有しようと言う心意気がある。
 それもその筈。この二人の行動理念として、『姫様・王女殿下の素晴らしさを広めたい』というものがある。故にアミレスの話を拒む事は無く、求められればすぐに応じるつもりでいるのだ。

 その代わり、ハイラとイリオーデは他担──この場合で言えば皇太子派閥と皇帝派閥だろうか。それらにはかなり厳しい。
 もしバッタリ出くわしてしまった日にはその場で悪態をつく恐れすらある。それ程にこの二人にとってアミレスが大きな存在であり、絶対的存在である事が分かるだろう。

「それでね、向こうの部屋は衣装しちゅっ…………ごめんなさい今の聞かなかった事にして……っ」
(はわわわわわ、アミレス様が! お噛みに! 可愛い……!!)
(噛んだ……王女様も噛む事があるのね……ふっ、なんかちょっと親近感湧いてきた……ってこれ失礼かしら。イリオーデに聞かれたら殴られそうね……)
「はい、かしこまりましたわ王女殿下」

 前方にて。アミレスが案内の最中に少し噛んでしまった。
 それにアミレスは恥ずかしさから明後日の方に目を逸らし、メイシアはきゅんきゅん胸を高鳴らせ、クラリスはちゃんと人間らしいアミレスに親近感を覚え、伯爵夫人はうふふ、と優しい微笑みをたたえていた。
 そして後方にて。勿論あの二人がアミレスの言葉を一言一句聞き逃す筈も無く。

(王女殿下が……お噛みあそばされた……?! ああなんと愛らしいお言葉! 言葉を誤ってもそれ程までに愛らしいなど無敵にも程があります王女殿下……っ!!)
(姫様が噛んでしまうのはこれで通算二百四十七回目でしょうか……まだまだ数え漏れがあるかもしれませんが、私が把握している所ではこれぐらいでしょう)

 恥ずかしさから耳まで赤くして若干俯くアミレスを、遠目で見るこの二人はその表情を変える事無くポーカーフェイスを貫き通していた。
 しかしその脳内はこれである。二人共立派な変人と言えよう。

「……聞きましたか、今の」
「勿論聞いたとも。あまりの愛らしさに耳と目が重症だ」
「ふっ…………そのようでは昔の姫様の話をした日には膝から下の骨が砕け散ってしまいそうですね、卿」
「王女殿下のお話であればその可能性も十分にあるな……」

 やはり決してアミレスから目を離す事無く大真面目に二人は話す。そう、本人達は至って真面目なのである。
 大真面目にアミレスが好きすぎるあまり、不意打ちの可愛さ等を見せられては大真面目に大ダメージを受けるのだ。何とも生き辛い生態をしている。

「ちなみに、姫様の八年間の軌跡を辿るとなると相当な時間となります故……今後の作戦会議の際にプレゼン資料をお持ちしますね。何回かに渡りお話しさせていただきますがよろしくて?」
「あぁ。王女殿下の話であれば何時間かけてでも聞きたい」
「それもそうでしたわ。ではそのように致します」

 コツコツと規則正しい足音を鳴らしてアミレスと一定の距離を保ちつつ歩き、徹頭徹尾アミレスから目を離さない二人。しかしどこか浮かれたように話し合う。
 何故なら、お互いにまだ知らないアミレスを知れる事になったのだから。
 アミレスの話を始めてしまえば作戦会議など進まないも当然なのに、ハイラとイリオーデは作戦会議の場で互いのアミレスとの思い出を共有する事とした。
 これに巻き込まれるシャンパージュ伯爵が憐れなり……と思うかもしれないが、それはお門違いというもの。何せ彼もまたアミレスに心酔しているのだから。
 シャンパージュ伯爵も嬉々としてハイラやイリオーデの語るアミレスの話に耳を傾ける事だろう。そしてその集まりの事をポロッとメイシアの前で零してしまい、『何その集まり! わたしも参加したい!』と羨望の眼差しを受ける事だろう。
 爵位簒奪計画などという凄まじい計画を立てる会の筈なのに、ただアミレスのファンが集まり語り合うだけの会合になる可能性が高い事に……本人達はまだ気づいていない。
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