だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 急いで窓から飛び降りる。これぐらいの高さならどうって事ない。五点着地をした時にそれなりに手足が痺れたが、折れてはいない。

「確かあっちの方だったわよね」

 雪の上で五点着地なんて初めてやったけれど、よく失敗しなかったな。しかし一瞬にして全身濡れた。でもほとんど冷たさを感じないとか何で作られてるのかしらこの服。
 だがそんな事を気にしている場合では無い。悲鳴が聞こえてきた方に向け、マントをなびかせて私は走り出す。
 少し走って行った所にある曲がり角。そこに差し掛かろうという時、丁度その曲がり角を一人の女の子が走り抜けて来て。

「ひゃっ?!」
「っいてて……大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

 私と女の子は正面からぶつかってしまった。女の子の顔は真っ青で、涙が溢れている。そしてその体はとても震えていた。
 一瞬、その震えは寒さから来るものかと思ったけど……その女の子の髪の色を見て、私は別の要因に辿り着いた。
 まさか初日から大当たりを引くなんて…!

「何かあったんですか? 私で良ければ話してください」
「こっ……怖い人に追いかけられてるの! い、家に突然……知らない人が来て……お母さんとしばらく話してたのに、あたしを見た瞬間に、その人が……あたしの事、追いかけて来て……こわっ、くて…………っ!」
「…………よく、ここまで逃げて来たね。お疲れ様。貴女の事は私が守るから」

 よく見れば女の子の服装は家着のようなもの。この時間のこの寒さに出掛ける人のそれではない。つまり、この子の言い分は正しく本当にここまで逃げて来たのだろう。
 泣きながら震える女の子を優しく抱き締めてあげて、私は眦を決する。

 果たして桃色の髪が赤系統の髪と判断されるかは分からないけど……最悪の場合は身代わりになれるだろう。私が殺人鬼の気を引いている間に皆にここまで来てもらって、女の子の保護を頼もう。
 遠くから誰かの足音が聞こえて来る。徐々に近づくそれは恐らく殺人鬼のもの。
 私は上空目掛けて水鉄砲《ウォーターガン》を放つ。後はこれに気づいた誰かが来てくれる事を祈るだけだ。
 女の子を背中に隠し、私は「おいで、白夜」と呟く。すると手元にはいつもの重みが現れる。そして──

「っ、出たわね……!!」

 ──曲がり角から飛び出て来たのは、イリオーデと同じかそれ以下程の大きさの人影。全身を真っ黒なローブで包んでいて、夜だからかその顔はよく見えない。
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