だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 とにかく異様なオーラを放つ殺人鬼が、遂に目の前に現れた。
 殺人鬼は私を見るなり驚いたようにビクリと反応した。追いかけていたターゲットとは別の人間がいたらそりゃあ驚くわよね。
 そして殺人鬼はゆっくりと手を上げて、後ろの女の子を指差した。

「──俺が殺さないといけないのは、その子だけだ。無闇矢鱈と人を殺したくない。だからお願い、そこを退いて」

 殺人鬼が震える声で喋ると、女の子が「ひぃっ!!」と更なる悲鳴を上げて私の背中に隠れた。
 何だ、何なんだこの殺人鬼。殺さないといけない? 無闇矢鱈と人を殺したくない? 一体何を言ってるんだ?

「何をふざけた事を言ってるのかしら。お前が連続殺人事件の犯人なんでしょう? 人の命を弄んどいて、その台詞は一体何のつもり?」
「……俺は、俺だって……誰も殺したくなかった。俺は、俺はただ──」

 殺人鬼の様子がおかしい。どうして殺人鬼がそんな言葉を吐くんだ。誰よりも苦しむような声で、殺したくなかったなんて。

「──ごめん、ごめんなさい……っ」

 気がついたら。殺人鬼が凄まじい速度で私の横を通り、女の子へと短剣《ナイフ》を向けていた。その口から放たれる謎の謝罪。
 それを知覚した瞬間、死ぬ気で体を動かして殺人鬼の短剣《ナイフ》を白夜で上空に弾き飛ばす。
 ……速い。この男、ただの殺人鬼じゃない。しかも何だこの禍々しい気配。今までに感じた事の無いタイプの魔力だ。

「この子は絶対に殺させない。私が相手よ、殺人鬼」
「…………どうして、邪魔を……俺は……っ!」

 殺人鬼との戦いが始まった。この男は非常に厄介な相手であった。
 動きが速く鋭い。その上、闇夜に紛れるように姿が見えなくなる事が多く、気がつけば女の子を殺そうとしていたりする。
 殺人鬼は一貫して私を狙わなかった。ずっと、女の子を狙い続けていて……女の子と殺人鬼の間に私が割って入り女の子を守っていた形となる。
 そして不味い事にこの男には魔法が全然効かないようなのだ。発動はするが、発動した魔法の大半が殺人鬼に当たる寸前で闇に消えてゆく。
 私一人であればまだ何とか戦えただろうが……女の子を守りながらとなると少し厳しい。
 この剣筋だってそうだ。明らかに素人のそれではない……何年も騎士として鍛錬を続けていたみたいな、そんなちゃんと強い剣だ!
 ああもうっ、早く皆来てくれないかなぁ! 生け捕りって難しいのよ?!

「この子の事は諦めて、さっさと投降してくれないかしら?」

 このまま長期戦に持ち込まれると私は負ける。だからこそ、私は息を落ち着かせてそう提案した。
 しかし殺人鬼は首を縦に振らない。

「無理だ。俺は逃げられないから。絶対に、その子を殺さないと……いけないんだ。そうじゃないと…………弟に、会えない」

 ……弟に会えない? それに、逃げられないってどういう……。
 そんな、些細な違和感が脳内に生まれた。

「誰かに脅されたりしてるんじゃ──」

 違和感から、ふと思いついたある可能性をボソリと呟いた時。殺人鬼の放った黒い影のようなものが私達を飲み込もうとして。

「しまった……ッ?!」

 私の馬鹿! 戦闘中に気を抜くとか信じられない!! そうやって己を叱責しても、もう時既に遅し。
 慌てて女の子の方を向くと、そこにはもう殺人鬼の魔の手があった。そちらに向け右手を伸ばしたその瞬間、手首につけていたブレスレットの宝石が、砕け散った。

「え……」

 突然の事に唖然としたその瞬間。私達の目の前に、一つの大きな……白く輝く魔法陣が現れたのだ。
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